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一代一度の大礼を支えた矜持

千代田衣紋道研究会の会員に聞く

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2020年4月27日更新

「令和の御代替わり」を彩った格式高い「束帯」に代表される宮廷装束。「大礼」とも呼ばれる一代一度の特別な祭儀を支えた衣紋道の本質と國學院大學とのかかわりを探る連載の2回目は、千代田衣紋道研究会(会長:茂木貞純・神道文化学部教授)の一員として実際の衣紋にかかわった方々にお聞きします。

大嘗祭で奉仕する会員(奥左から2人目が大久保さん)※千代田衣紋道研究会提供

下から一つずつ積み上げていく

國學院大學神道研修事務部神道研修事務課長・大久保規志さん(平10卒・106期法)

 國學院大學の卒業生(院友)ですが、法学部出身なので神道とは無縁で、本学に就職してから上司の勧めもあって神道や有職故実を学ぶようになりました。衣紋は学外で学んでいます。大学で授業の補助している関係で「千代田衣紋道研究会でご奉仕してみないか」とお話をいただき、今回のご奉仕にかかわるようになりました。即位礼と大嘗祭を中心とした祭典で、掌典職や楽師の方々の装束をお著(つ)けしました。

 大嘗祭では、1時間もないうちに2人1組で3、4人を著けなければなりません。全体では数十人をこなし、しかも失敗は許されませんから大変なところです。かといって、時間ばかりに気を取られてはいられません。衣紋は装束を下から順番に重ねていくものなので、一部が崩れるとすべてが乱れてしまいます。積み木を積み上げるのと同じで、早く積み上げるのがよいとうわけではなく一つ一つ着実に積み上げていくことが大切です。練習あるのみですね。

 大嘗祭で用いる束帯を簡単にした衣冠は一般の神職も著けます。神職課程を履修する学生の授業でも稽古をしますが、最高位の束帯は「このようなものですよ」と授業の一コマとして紹介するだけです。実物を目にしたり手にしたりできたことが今回の面白さだったと思います。

 國學院大學にはキャンパス内に神殿があり、年間を通じて教職員、学生が奉仕をしています。奉仕をする学生は、授業で学んだ衣紋に興味を持って学内のサークルに入っている人たちです。そのような学生が今後の衣紋を支えていくことになります。御代替わりの祭式には、残念ながら学生が参加することはありませんでしたが、技術の伝承をしなければならないのも事実です。衣冠は大学の祭典で実際に著けますし、一般の神社でも宮司となれば著けることがあります。衣冠の著け方は束帯の応用なので、授業以外にも勉強会を開くなどして伝えていきたいですね。

準備・点検の大切さを実感

茨城・素鵞(そが)神社禰宜・木名瀨 真大さん(平20卒・116期神文)

 國學院大學を卒業してから10年間、伊勢の神宮に奉職しました。初めて束帯の衣紋を学んだのは、平成25年に斎行された第62回神宮式年遷宮の際です。御代替わりのご奉仕には、神宮で先輩だった方から声をかけていただいたことがきっかけで携わる機会を得ました。実は神宮で衣紋を学びはしたものの、実際に束帯の衣紋をご奉仕する機会が無かったという心残りの部分がありました。今回、良いご縁に恵まれ、貴重な経験をさせていただいたことに感謝しています。

 御代替わりの祭儀では、即位礼正殿の儀で掌典職を、大嘗祭で宮内庁楽師の著装(ちゃくそう)を担当しました。束帯は一人で著けることができませんので、2人の衣紋方が呼吸を合わせてご奉仕するところが一番難しかったです。研鑽を積んで上達はしますが、相方の著け方によっては感覚が異なります。いかに長い時間、相方と稽古できるかがカギではないでしょうか。

 本番では準備の段階から点検することに気をつけました。笏(しゃく)などをしまう帖紙(たとうし)の紐が切れていることがわかり、装束店さんに新しいものをもってきてもらうようなこともありました。お著けする時に支障があっては、祭祀はままなりなりません。事前の点検は大事だと実感しました。

 神宮では自分一人で自身の斎服を著けるのが当たり前という世界でした。しかし、多くの神社では衣冠等を著けてもらうことが一般的です。神職が衣紋を奉仕するばかりではなく、装束店の方に依頼することが大半ではないかと思います。全国的に見ても衣冠の著装ができる神職は少ないのではないでしょうか。國學院大學の後輩には、まず装束を目にしたり触れたりする機会を増やしてもらい、在学中に衣紋のスキルを体得した上で奉職していただくと、祭典奉仕における活躍の場が増えるのではないかと思います。

 

我流に流れず基本をしっかりと

伝統文化保存協会事務長・岡本 和彦さん

 宮内庁京都事務所と民間で、40年以上も衣紋道に関わってきました。京都事務所は特殊なところで、戦前の登極令で即位に関わる儀式はすべて京都で行うことが規定されていたことから、戦後も引き続いて衣紋や有職故実を受け持っています。平成の御代替わりでは現職として、令和の御代替わりでは千代田衣紋道研究会の講師として衣紋を後進に指導しました。その中では、我流に流されず基本をしっかりと身につけてもらうことを一番に考えました。

 平成の時は60年以上も儀式が行われなかったので、分からないことだらけでした。今回は平成の例を知る人も残っていたので、その点は安心できました装束も平成の時に使って30年間使っていなかったものを修繕したのですが、即位礼正殿の儀では雨が降って一部の方の出番がなくなり、せっかく直したのにもったいないことになってしまいました。

 近年では大きい神社では衣冠を自分で著装することが減り、装束店に任せているようです。装束店も人手不足のためか手際よさを優先した方向に流れがちです。衣紋道は何につけても2人で著装することが基本で、狩衣、衣冠、束帯の別なく2人で著けます。それを1人で著けようとするからクチャクチャに乱れてしまう。クチャクチャにならないよう便宜的に著けるから、本当の衣紋道が分からなくなってしまうのです。

 研究会の稽古では参加者全員に教本を配り、それに則ってきちんとした基本を身につけてもらいました。我々が受け持つのは実践衣紋で、人に見てもらう衣紋とは違って著付けた方が動きます。見た目のきれいさだけを目指していたら衣紋になりません。今回の完成度は70~80%といったところでしょう。

 今後に衣紋道を伝えていくためには、國學院大學のような(宮内庁の)外に頼らざるを得ないと思います。教本を読み解き、体で覚えてもらいたいと思います。

このページに対するお問い合せ先: 広報課

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