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活版印刷の技術を大切にしながら
紙活字を制作していきたい

(『シブヤ沼フェス』インタビュー 第4回 和田由里子さん(Paper Parade Inc.))

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Paper Parade Inc. 和田由里子

2020年3月4日更新

 「渋谷」は、誰かの好きなもので溢れています。ファッション、音楽、アート、映画、文学、ゲーム、スポーツ……。
 「渋谷」を中心に活躍するみなさまに、アナログに引き続き、好きなモノ、はまっている「沼」についてインタビューしました。今回は、紙活字を制作された、タイプデザイナーの和田由里子さんです。

 

−−現在のお仕事を始めたきっかけを教えてください。

 
和田さん(以下和田) スイス・バーゼルの学校にいた時に、紙活字の構想が始まりました。最初は、自分だけのデザインツールとして使っていたのですが、いろいろな方から、
「誰でも楽しめるものにしてはどう?」
「活版印刷のアップデート版として、業界を長続きさせる装置になるのでは?」などと言われ、誰でも使えるようなキットを制作しはじめました。
 その後、書体制作の会社でタイプデザイナーとして働くことになり、書体制作を学び、試行錯誤の末、紙活字が完成しました。
 

※これが紙活字。活字部分は、しっかりしている。
 
−−紙活字って、どうやって作られているんですか?
 
和田 紙と紙を糊で貼り合わせ圧着させた「合紙」を、レーザーでカットしています。紙活字専用の書体も制作しました。紙活字のいちばんの魅力は、活字の表面に思い思いの加工ができるところ。それを想定した書体です。
 
−−たとえば、どんな加工ができるのですか?
 
和田 ナイフやフォーク、ペンやクリップなど、さまざまな道具を使って、表面をひっかいたり、削ったり、凹凸をつけるなど、オリジナルの活字を作ることができます。一般の方むけに、手軽に紙活字での印刷が楽しめるキット「Paper Parade Print Kit」を発売しました。
 

「Paper Parade Print Kit」の印刷機。紙活字にローラーでインクをのせ、紙をはさんでプレスする。
 
−−「Paper Parade Print Kit」を作る上で、意識されたことは?
 
和田 日々の暮らしのなかで、気軽に活版印刷を楽しんでもらえたらという思いがありました。そのために、「印刷機」ではなく、家具のように、暮らしになじむデザインを心がけました。
−−紙活字に関するお仕事をされる上で、大事にされていることはなんですか?
 
和田 過去の人がやってきたことと、新しい技術や考え方を結びつけるようにしています。活版印刷の技術が現在まで残っているということは、この期間耐えられる知恵や歴史、技があったからだと思うので、それを大切にしながら、制作をしたいと思っています。
 

※この手帳には、試作中の書体が描かれていた。
 
−−紙活字のお仕事を軸に、今後やってみたいことはなんですか?
 
和田 教育に関することをやってみたいです。教育って、何かを教えるというよりも「気づく」とか「学び方がわかる」ということだと思っています。これまでも、ワークショップで紙活字の体験を提供してきましたが、これからも、誰かの「気づき」や「学び」のきっかけになるような体験を提供したいと思っています。
 そもそも「学べる場=学校」って、忘れがちだけど実験や失敗が許される場ですよね。学校を卒業してしまうと、実験や失敗できる機会がなくなるので、そういう場に関わることをしてみたいと思います。
 
プロフィール:
和田由里子(わだ・ゆりこ)
多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒業後、スイスバーゼル造形学校に2年在籍。2009年から紙活字の制作を始める。2016年4月から、「Paper Parade Printing」のプリンティングアーティストとして、紙活字作品製作やワークショップなどの活動をしている。
「Paper Parade Printing」 http://paperparade.tokyo/
 
 
お仕事以外でハマってしまった沼:
紙を積層するアートワーク「Paper Pebbles」にはまっています。毎日、貼り合わせをして紙の積層の木材のような素材を作り、加工します。積層の素材を作るには膨大な時間がかかるため、できあがるまでの湿度や環境など、時間軸が加わっていく作品だと思っています。誰でも思いつくアイデアにも関わらず、やっている人がほとんどいないのは、制作の中でおこる困難な事象と立ち向かわなければならないからかもしれません。2019年11月に、平和紙業「ペーパーボイス東京」で、展示しました。
 

※1か月ほど紙を貼り合わせ、ベルトサンダー(やすり)で削ったもの。パステルカラーの絶妙なマーブル模様がキレイ。
 
 
撮影:服部希代野 編集:篠宮奈々子(DECO) 企画制作:國學院大學
 
 

 

 

 

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