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オオクニヌシに救われた哀れな兎-イナバノシロウサギ

古事記の不思議を探る

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研究開発推進機構 教授 平藤 喜久子

2019年12月10日更新

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大国主大神と白兎の像(出雲大社・島根県)

 ウサギは、日本人にとって古くからとても身近な動物でした。現在はかわいいペットというイメージをもたれがちですが、食用として活用する地域もあります。昔話にもウサギはたびたび登場します。「かちかち山」という有名な昔話では、おばあさんを殺したタヌキに、知恵を使って復讐をする賢いウサギが活躍します。

 古事記に登場するウサギは、賢いというイメージとは少し違っています。

 あるとき島にいたウサギは、海を渡って対岸に行きたいと思います。しかし渡る方法がありません。そこで海に住むワニに、ウサギとワニとどちらの数が多いか比べようと持ちかけ、ワニたちを島から対岸へと並ばせ、その背中の上を数を数えながら走って行きました。最後のところでウサギは「お前たちはだまされたのだ!」と言ってしまい、怒ったワニに皮を剥がされてしまうことになります。

 痛くて泣いていると、オオクニヌシの兄弟たちがやってきて、「海水を浴びて風に吹かれるといい」と嘘を教えます。当然ウサギの怪我はひどくなってしまいます。また泣いていると、後からやってきたオオクニヌシが「真水を浴びて蒲の花粉を体にまとうようにすれば治るだろう」と教えます。今度は見事元通りのふさふさの毛皮に戻りました。元通りになったウサギは、このあとオオクニヌシに「あなたは今は兄弟たちの荷物持ちですが、ヤガミヒメという美しい女神はきっとあなたを結婚相手に選びますよ」と予言をし、兎神という神になります。

 このウサギは、シロウサギと呼ばれます。日本語でシロというと白色を意味するため、白いウサギを思い浮かべますが、シロとは、「素」の意味で、野生の茶色っぽいウサギのことと考えられます。ワニという言葉を聞くと、現在の日本人はクロコダイルを思い描きますが、クロコダイルは日本の近海には存在しません。そのため、「サメ」をワニと呼んだのではないかといわれています。

 古代の日本人がともに暮らしていた動物たちの姿を知ると、神話についてもより深く理解することができるようになります。

 さて、この神話に登場するウサギは、悪知恵をめぐらせて、痛い目に遭う少し間抜けな動物です。それが最後に神となるのは、瀕死の重傷から蘇ったという体験が、ウサギを大きく成長させたからと解釈できます。動物が試練を経験して神となる。自然界のさまざまな物を神としてきた日本の神話らしい物語といえます。

 

 

 

平藤 喜久子

研究分野

神話学 宗教学 宗教史

論文

「戦間期の神々―多神教の諸相」(2023/09/08)

比較神話学から読む『遠野物語』(2022/06/24)

このページに対するお問い合せ先: 総合企画部広報課

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