ARTICLE

月はやっぱり去年のとほりの月ぢゃ

本居宣長自筆稿本『古今集遠鏡』3巻一冊

  • 全ての方向け
  • 文化
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

本学兼任講師・研究開発推進機構客員研究員 荒木 優也

2019年9月25日更新

『古今集遠鏡』五の巻(本居宣長稿本)國學院大學図書館所蔵

 天皇の命令によって編まれた初めての勅撰和歌集『古今和歌集』全20巻(10世紀初め成立)は、日本文化の規範を考えるとき正典ともいうべき作品であり、その影響力は計り知れない。ただし、その全文口語訳が生み出されるには、約900年のときを待たねばならなかった。

 寛政5(1793)年頃にその原稿が出来上がったという『古今集遠鏡』は、国学四大人のひとり本居宣長[1730―1801]によって著された口語訳であり、本学図書館所蔵の1本はそのうちの巻14から16までをおさめる自筆稿本の5冊目にあたる。宣長は、在原業平の恋歌「月やあらぬ春やむかしの春ならぬ我身ひとつはもとのみにして」を次のように口語訳している。

 「月はやっぱり去年のとほりの月ぢゃ〈略〉 なんにも去年とちがうた事はないに ただおれが身一つばっかりは 去年のままの身でありながら 去年逢た人にあはれいで その時とは大きにちがうた事わいの さてもさても去年の春が恋しい」

 「~ぢゃ」「おれ」「~わいの」など当時の話し言葉が見られるのが、なんとも面白い。『古今集』と現代との距離を縮めてくれる作品である。学報連載コラム「未来へつなぐ学術資産研究ノート」(第4回)

 

 

 

このページに対するお問い合せ先: 広報課

MENU