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地方では無理なのか?アニメ産業の“特殊な働き方”

沖縄のアニメ産業からみる「産業パッケージ」のあり方(後編)

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経済学部准教授 山本健太

2017年2月16日更新

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勝連城跡からの与勝半島の眺め。 Photo by kanegen via Wikimedia Commons, under CC BY 2.0.

 全国的な「地方の過疎化」が進む中、若者を都心に流出させず、さらには別の地域からも若者が流入する“試み”を地方自治体が行っている。近年では、それまで地域になかった業種の企業オフィスなどを誘致し、産業自体をゼロから興すケースも目立っている。

 前回の記事「雇用対策で始まったアニメ産業、沖縄に根付くのか?」で、沖縄県でも、東京のアニメスタジオを誘致する取り組みが行われたことを紹介した。そしてそれを機に、地元企業などと連携して「アニメ産業」を1つの柱にして地域を活性化する計画が立てられた。このプロジェクトは、アニメ作品を生み出し、結実したかに見えた。しかし、結果的には、このプロジェクトが継続的に続くことはなかったという。

 なぜ、アニメ産業は沖縄に根付かなかったのか。そこには、企業誘致において、すべての地方が教訓とすべき「産業パッケージのあり方」という問題がはらんでいるという。地理学の面から経済を分析する國學院大學経済学部の山本健太准教授の話を元に、詳しい内容を紹介していく。 制作:JBpress

profile

國學院大學経済学部准教授の山本健太氏。博士(理学)。東北大学大学院理学研究科博士課程修了。九州国際大学特任助教、同助教、同准教授を経て現職。地理学の視点から日本の経済・地域経済の振興を研究する。「ひたすら歩き、話を聞くことで地域の経済が見えてくる」を信条に、フィールドワークを中心とした実証主義に基づく研究を続ける気鋭の地域経済専門家。

沖縄スタジオの生産量が上がらなかった理由

──前回は、沖縄県にアニメスタジオが誘致された経緯を伺いました。実際にこのプロジェクトでは、アニメを軸とした連携が生まれたのでしょうか。

山本健太氏(以下、敬称略):プロジェクト開始から1年後の2011年春には、沖縄県を舞台としたアニメ作品が県内のテレビ局で放映されました。そして、その関連事業も企画されたようです。

 まず、プロジェクトに参画していた旅行会社が、県外からの修学旅行生を沖縄に招いて、ダンススクールでレッスン体験する企画を立ち上げます。その際、この企画を宣伝するパンフレットの制作を地元の広告代理店に依頼。そして、そのパンフレットには、先述したアニメ作品のキャラクターが載せられました。アニメを活用して、プロジェクトに参画する各社が連携する形をとったと言えます。

──そうやって成果を残しながら、なぜ沖縄県のアニメスタジオは閉鎖に追い込まれてしまったのでしょうか。

山本:その理由を分析すると、地方に産業を持ってくる際の「産業パッケージのあり方」という課題が見えてきました。

 率直に言えば、そのスタジオでの生産量が、どうしても上がらなかったのです。このアニメスタジオは東京に本拠地があり、将来的には、沖縄スタジオが東京スタジオの生産の一部を担うことが期待されました。しかし、やっていく中でそれは難しいことが分かってきました。その結果、閉鎖になってしまいます。

──沖縄スタジオのスタッフは30人弱おり、一定の人員を確保していましたよね。それでも生産量は上がらなかったのでしょうか。また、沖縄県の雇用対策事業でもあるため、賃金コストが抑えられるというメリットも享受していたはずですが。

山本:最大の問題となったのは、東京スタジオと沖縄スタジオでの「スタッフの働き方の違い」です。

 アニメ制作のスタッフは、非常に特殊な働き方をします。昼よりもむしろ夜中に働いたり、スタジオで何日も寝泊まりしたりということが珍しくありません。それが良いかどうかは別として、現実的にそういった働き方が業界の主流です。東京スタジオの勤務状況を調べてみると、やはりそういったスタッフがほとんどでした。

 一方の沖縄スタジオは、10時頃に出社して19時頃に帰るのが基本です。というのも、行政の助成金が入っているため、労働時間は厳しく管理されます。残業時間についても厳密に調整され、休日も定期的に確保されました。

 となると、夜中に作業をする東京スタジオと、昼間に仕事をする沖縄スタジオでは連携がうまく取れません。また、アニメ制作は締め切り前だとほとんど休みなしの状態になりますが、沖縄スタジオではそれはできません。その結果、徐々に東京スタジオの方で仕事を回すようになり、沖縄スタジオの生産量が上がらなくなってしまったのです。

──皮肉にも、行政が関わっていることで、働き方のミスマッチが生まれてしまったということでしょうか。

山本:アニメは、「無くても生活できる」という非常に趣味性の強い産業です。それを地方で成り立たせるには、行政の支援が不可欠でしょう。ただ、その支援が一方で足かせになったことは、認識しておかなければならないと思います。

産業誘致では、働き方を支える「インフラ」にも配慮を

──前回の記事で伺ったように、「アニメ業界で働きたい」という人は沖縄にある程度いて、また沖縄自体もアニメ産業を立ち上げることに可能性を感じていました。それらの点から、アニメ産業と沖縄の組み合わせは悪くないように思いましたが、業界特有の働き方の部分でマッチングが難しかったということですね。

山本:アニメ産業を持ってこようという政策自体は良かったと思います。問題は、どこまでを「産業のパッケージ」として捉えるか。その産業における働き方、働く人の環境までを含めないと、なかなか上手くいかないということですよね。

 今回は助成金の兼ね合いで労働時間の制限がありましたが、それ以外にも働き方でのミスマッチは発生したと思います。というのも、アニメに限らず、クリエイティブな業界は、一般の尺度で測れないような“時間を問わない働き方”になりがちです。だからこそ、彼らは仕事と生活が一緒になるような「職住近接」を求めるんですね。

 たとえば東京のアニメスタジオなら、職場に寝泊まりする環境もありますし、夜中にお腹が空いたら近くのコンビニや飲食店などに入ります。一方、沖縄のアニメスタジオ近くでは、夜中に営業しているお店がほとんどありませんでした。

 これは沖縄のアニメスタジオだけの話ではありません。今さまざまな地域で企業誘致やサテライトオフィスの設立が行われており、なかにはクリエイティブな企業が地方にオフィスを構えるケースもあります。その場合、地方は家賃が安いので、オフィスの近くにアパートを借りやすく、一見すると職住近接ができているように思えます。

 しかし、確かに職と住は近いですが、問題は「それを支えるインフラがあるか」ということです。夜中に空いているお店があるか、すぐに宅配荷物が届くか・・・など、時間を気にしない働き方が実現するかというと難しい部分があります。

──重ね重ねですが、そういった働き方が良いかどうかは別として、クリエイティブ業界では職住近接が求められる実情があります。しかし、地方の産業誘致では、それを可能にするインフラが整っていないケースが多いということですよね。

山本:そうですね。働き方までパッケージして、産業を誘致しないといけないと思います。私たちは、このような場合、「行政は場所を与え、お金を出すだけ」と考えがちですが、誘致に際しては行政が「働き方」まで考えないと上手くいかないようで、そこが一番悩ましい部分だと思います。そして、「この場所でやるべき」と思える理由があるのが理想ですよね。そうしないと、いつか行政の助成金が出なくなった時に、継続できなくなってしまいます。

 とはいえ、今回の沖縄の事例は、雇用対策として必要な試みだったと思いますし、「眠っていた地元の人材を掘り出すことができた」意味は大きいと思います。その後も、別の企業が沖縄でアニメを作るなど、試金石として次につながりましたから。

──それでも、地方に新たな産業を興し、それによって雇用を生んで地元に住む人を増やすことは簡単ではない気がします。

山本:そうですね。ただ、別の地域では、「仕事」を軸に別の土地から人が移り住み、地域の活性化につなげているケースもあります。その事例はまた別の機会に紹介したいと思います。

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