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コンピューターを使ったテスト。
CBT で理科教育は大きな変化を遂げる。

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人間開発学部 准教授 寺本 貴啓

2019年9月2日更新

   小学生の頃、「理科」のテストを受けていた時の自分を、思い返してみよう。得意科目として余裕だった人もいるだろうし、苦手だからと意気消沈していた人もいるだろう。だが、その「テスト」のあり方自体が妥当かどうかには、今も様々に議論がなされている。自らの小学校時代を振り返りながら、一緒に考えてみてほしい研究があるのだ。
      小学校の新学習指導要領がいよいよ実施となる。子どもたちの学びが大きく変わっていく中、小学校理科における授業づくりと評価についての研究と普及に携わってきているのが、寺本貴啓(てらもとたかひろ)・人間開発学部准教授だ。

 そんな彼が現在、並行して注力しているのが、CBT(Computer Based Testing)。ペーパーテストではなく、パソコンやタブレットなどのコンピューターを用いる、新たなテストのあり方である。科学研究費助成事業:基盤研究(A)19H00624「小学校におけるCBTを活用したテストモデルの開発と能力測定の有効性に関する研究」(2019年度~2023年度予定)の助成を受け、スタートさせたその研究が目指す未来を尋ねた。

 

 一般的なイメージとして、中学校や高校で学ぶ理科は、知識を試験で問う、という印象が強いかもしれません。一方で小学校理科という教科では、自然を体験する、ということにより重きが置かれています。子どもたちが自分で自然に触れる――たとえば植物 を見て、きれいだなあ、と感じることが始める、ということですね。
 その上で、自分で疑問を持って、それを解決していける力をつける、ということが重視されます。まとめていえば、自然を対象にして、疑問を持ち、自分で調べるなどして解決していく、ということですね。
 ただ、小学校理科は中・高の理科に比べてそうした性質を持ちながらも、これまでは知識を教える、ということがどちらかといえば是とされてきました。たとえば、塩酸に鉄を入れた時、鉄が溶けるかどうかをテストで聞く、というようなことです。

 

 

    そうした教科のあり方が、これから変わります。学習指導要領は10年ごとに改訂されるのですが、改訂された新学習指導要領が、令和2(2020)年度より実施されるのです。そこでは、知識をたくさん覚えている、情報をすぐ引き出せるということではなく、ある知識をどう使えるか、どう組み合わせて考えるかという思考力を重視するようにシフトしてきています。

 これには、社会状況の変化が大きく関係しています。10年前は現在のように、調べたいことがあったらすぐにスマートフォンで答えを検索する、というような状況ではありませんでした。今では、知識は調べればすぐに引き出せるようになった。つまり、必ずしも知識を暗記していなくてもよくなったわけです。これが、考える力に重きが置かれるようになった背景ですね。

 すると、その考える力の測り方、そして評価の仕方が課題となってきます。知識を覚えているか否かであれば、これまでのペーパーテストでも簡単に測定し、評価することができました。しかし、そうした知識を問うことが得意なペーパーテストでは、これから重要になる考える力を聞きにくいのです。

 そこで私が研究を進めているのが、CBTなのです。たとえば、濾過(ろか)の実験を、考えてみましょう。漏斗があり、そこに濾過紙をしいて、ガラス棒を伝わせながら液体を注ぐ。下に置くビーカーは、漏斗の先の長い方をビーカーの内側につけると、液体が飛び跳ねずに正しい実験を進められます。このような実験を、コンピューター上で一人ひとりどのように操作しているか再現し、評価することができます。

 実験の中で子どもたちが行う操作、そこで考えている過程のログを、コンピューターではとることができるのです。思考しているプロセス自体を、CBTでは測定できるようになる可能性があるのではないか、と私は考えています。

 

 

 また従来のペーパーテストでは、子どもたちの理解力が、状況を説明する文章の読解力に左右されてしまうという危惧があります。ペーパーテストで理科が苦手だと判定された児童も、実は読解力があるかないかで力を測定、評価されてしまっている、ということがありうるのです。
 一方でCBT型テストでは、問題を文字ではなく動画やアニメーションなどが使えるため、様々な情報を無理なく入れ込むことができる。子どもたちに求められているのも、社会に出てから問題を解決する、考える力なのですから、より現実的な状況を表現できるCBTは、この点でも優れていると思われます。
 近年は学校のICT化が進み、中学校の全国学力・学習状況調査では、英語でCBTの実施が始まりました。小学校のCBTにおいて、どのような問題の出題のさせ方が可能なのか、能力のどのような測り方、評価の仕方、見取り方ができるのかというのは、まだこれからの研究分野なのです。
 小学校の先生は様々な教科を教えなければなりませんし、1クラスの子どもの人数も多いですから、子どもたちの個々の力をきちんと見取るということは、どうしても難しい状況にあります。それは決して、先生方の責任だけに帰すことができる問題ではありません。その上で、先生たちの能力に左右されない、児童の個の力を見るためのベーシックな基準を、CBTで示していければ、と思っているんですね。

 

 

     まずはペーパーテストと同じ内容をCBTで出題したとき、そこにはどのような違いが見出されるのかというところから、将来的な普及へと歩みを進めていきたいと思っています。今回の研究メンバーの方々は、文部科学省の調査官をはじめ、小学校の現場で教鞭をとられている経験豊かな先生方や教科教育や統計分析など各分野の大学研究者など、全国の一線で活躍されている方々にお集まりいただいています。

 本研究の専用のWEBサイトも立ち上げましたので、鋭敏にアンテナを張っている、これからの小学校教育を担う若い世代の方にも、ぜひアクセスしてみていただきたいですね。

 

 

 

 

 

 

寺本 貴啓

研究分野

理科教育学、学習科学、教育方法学

論文

新学習指導要領における小学校理科の評価の在り方と指導に関する一考察-新しい観点別学習状況の評価で指導がどのように変わるのか-(2021/03/01)

1B2-A26 小学校第6学年「電気の利用」単元の発熱教材の条件に関する研究 : 短時間で大きな温度差が出るよりわかりやすい実験条件とは(インタラクティブセッション,学びの原点への回帰-イノベーティブ人材育成のための科学教育研究-)(2014/09/13)

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