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大学から挑む日本の伝統

弓道に魅せられて

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弓道部 桐野晴香選手(子支3)、五十嵐友樹選手(日文1)

2019年3月9日更新

 静寂に包まれた道場に、渇いた弦音(つるね)が響く-。國學院大學弓道部は来年に創部100年を迎え、学内でも長い歴史と伝統を持つ。現在は男女ともに東京都学生弓道連盟の2部リーグに所属し、秋のリーグ戦を中心に公式戦での活躍を目指しながら、修練を積んでいる。同部は未経験者にも広く門戸を開いており、1年目から試合に出場する初心者部員もいる。日本の「弓」は、時代とともに武器から武士の教養としての武道、そして競技スポーツへ進化してきた一方で、神事とも密接に絡んできた日本の伝統文化でもある。初心者として大学で弓道を始めた部員の桐野晴香さん(子支3)と五十嵐友樹さん(日文1)に、初めてのことに挑戦する苦楽や自身の成長、そして弓道の魅力について聞いた。

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何事にも初めはある

--大学で弓道を始めようと思ったきっかけは

桐野さん(以下、桐野):中学ではバレーボール部に所属し、高校ではハンドボール部でマネジャーを務めていました。進学のたびに異なることを始めてきたので、大学でも新しいことに挑戦したいと考えていました。もともと武道に興味がありましたから、先輩に勧誘していただき、道場で体験して楽しかったことが入部のきっかけになりました。袴(はかま)を着て弓を引く先輩の姿が格好良く、憧れたことも理由です。以前はチーム競技の経験しかなく、個人でできる競技だというところにも魅力を感じました。

五十嵐さん(以下、五十嵐):小学校から高校まで野球を続けていたのですが、剣道一筋だった姉から「大学で野球をしないなら、武道をやってみたら」と勧められたのがきっかけです。教員になることを目指して入学しましたから、弓道部の卒業生や現役の先輩に教員や教員志望者が多いことを知り、先輩方から「相談にのれるよ」と言っていただいたことも動機になりました。

--初心者として不安は

桐野:少しありましたが、弓道部のある高校は多くないので、大学から始める人は珍しくありません。入部した同期生にも初心者が多く、心強かったです。先輩から「初心者の中にも1年目から試合に出場する部員もいるよ」と説明を受け、「私も活躍できるかもしれない」と思えました。実際に、1年生のときに少しの機会ですが、リーグ戦に出場させてもらうことができました。

五十嵐:不安でしたが、何事にも初めはありますから、「野球のときと同じで、コツコツやっていけば、何とかなる」と考えるようにしました。「たとえ試合に出られなくても、なかなか機会のない弓道を経験できるなら、それだけでも十分じゃないか」と発想も変えてみたら、気持ちが楽になりました。

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礼法にカルチャーショック

--とはいえ、初心者ゆえの困難もあったのでは

桐野:最初のカルチャーショックは、上下関係や武道ならではの礼法に対する厳しさです。中学、高校での部活動は、どちらかというと「みんなで楽しく頑張ろう」という雰囲気でしたから。射法(弓を引き分けて矢を放つ一連の基本動作)についても、先輩から体の動かし方などを指導していただくのですが、最初の頃は頭では理解できても体をその通りに動かせず、苦労しました。

 ようやく的に矢が当たるようになっても、自分が試合に出ている姿をなかなかイメージできず、練習への意欲を高めるのが難しかったです。実際に試合に出場できるようになってからも、誰もが緊張するとはいえ、高校から試合に慣れている経験者との差を感じました。出場メンバーを選ぶ立場になってみれば、本番で緊張してうまくいかないかもしれない初心者よりも、本番に慣れていて的中率も安定した経験者を重宝するのは当たり前です。「初心者だから仕方ない」というコンプレックスを克服するには、1年間ほどかかりました。

五十嵐:1年生は最初、射場の裏で弓を持たずに射法を身につける練習を繰り返し、一定のレベルに達すると射場で弓を引くことができます。経験者は射場での練習に移るのが早いですが、私は2カ月間くらいかかり、初心者の中でも早いほうではなく、焦りを感じました。弓道は専門用語が多く、的をつくったりする仕事もさまざまあり、全てを覚えるのが大変でした。特に体配(たいはい=道場への入場から行射、退場までの一連の動き)は、所作が一つ一つ細かく決まっていて、できるようになるのが、ひと苦労でした。

--学業との両立に、どんな工夫を

桐野:部活動と学業、アルバイトを両立させるために時間を有効に使うことを心がけてきました。人間開発学部は必修授業が多いうえ、部活動にかかるお金をアルバイトで稼がなければならず、特に1、2年時は他の部員と比べて練習時間があまり取れませんでした。ですから、1コマだけ授業が空いているときも道場に通い、限られた時間の中で他の部員に引けを取らない練習をどうしたらできるかということを意識してきました。

五十嵐:文学部は午前中に必修授業が多いので、選択科目も午前中に集中させ、なるべく授業を午前中に終わらせて、昼から夕方までは練習、夜は自分の勉強に充てています。練習には、その日に克服したい課題を明確に決めて臨むようにしています。

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自分と向き合う

--弓道を通しての学びや気づきは

桐野:自主練習の時間を多く取るようになりました。自分の射形を動画に撮り、どこが良くないかを研究するようにもなりました。一つのことにこれほど本気で打ち込んだことはなかったので、自分の変化に驚いています。全力で一つのことに取り組むのは、とても楽しいことだと気づかされました。練習をどんなにしても的に矢が当たらないときはあり、努力が報われずに悔しいと思うこともあります。でも、苦しくても練習を頑張って結果が出たときの達成感はとても素晴らしいものです。「続けていて、よかった」と心から思います

 学業では、保育士資格と幼稚園教諭免許の取得に向けた教育実習の途中で、くじけそうになったこともあります。アルバイトでも、失敗して落ち込むこともあります。それでもあきらめずにいられたのは、うまくいっているときも、うまくいかないときも、続けることの大切さを弓道から学んだからだと思っています。

五十嵐:初心者として弓道を始め、1年近く続けてきて、「ここまで頑張れているのだから、他にもチャレンジできることがあるはず」という自信がわいてきました。それで、新しいことに積極的に取り組むようになり、教職課程で勧められた本を面倒がらずに読んでみたり、アルバイトを始めたりしています。

 自分と向き合うことも多くなりました。学生弓道にはリーグ戦のように団体戦もありますが、基本的にはまず自分一人の世界に入り込まなければなりません。これは、相手投手によって作戦を変える野球とは全く異なります。弓道は、自分を見直さないと、できないスポーツだと思います。ですから、「自分は今、どんな状態か」「前の試合では何が悪かったのか」を常に考えています。視野も広がりました。弓を引いているときは、体の一点に集中していればよいわけではなく、あらゆる体の部位に注意を払うことが求められます。弓道で自分と向き合うことが増え、視野が広がったことで、生活全般でも同じ失敗を繰り返さないようになり、物事を見渡す力も身に付いたと感じています。

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本来の精神を大切に

--今後の目標を聞かせてください。

桐野:女子は昨年のリーグ戦で2部3位から4位に落としてしまったので、今年こそは1位になって入れ替え戦に進み、1部を目指していきたいです。これまでの試合メンバーは高校からの経験者が圧倒的に多く、経験者に支えられながら戦ってきました。今年は私たちが最上級生になりますから、4年生として部員を引っ張って、勝利したいと思っています。

五十嵐:男子は現在、2部3位なので、上位2校に勝つのが大きな目標です。そうすれば、1部との入れ替え戦は自然と見えてくると思います。個人としては、まだリーグ戦の出場経験がないので、まずは的中率を安定させることを目指しています。

--國學院大學は神道精神を教育目的の基礎に据えています。神事とも関係の深い「弓」を操る弓道部の活動で感じる國學院らしさとは

桐野:的に当てるという競技の面だけではなく、射形をきれいに保つという弓道本来の精神も大切にしているところは、國學院らしいこだわりだと感じています。道場が渋谷とたまプラーザの両キャンパスにあることも、國學院ならではです。こうした恵まれた練習環境がなければ、学業との両立は難しかったと思います。

五十嵐:道場の神棚に向かって行う二礼二拍手一礼で、お辞儀の角度や所作のテンポなどについて、入部当初から厳しく教え込まれました。神前礼拝を決しておろそかにしない姿勢は、國學院らしさだと感じています。

--ありがとうございます

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