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高校生と地域をつなげた画期的な自習室

群馬県渋川市に誕生した自習室「すたでぃばんく」

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國學院大學法学部准教授 稲垣浩

2016年10月31日更新

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群馬県渋川市の放課後自習室「すたでぃばんく」のエントランス。

「シャッター商店街」「空き店舗」といったフレーズは、すっかり地方の街並みを象徴する表現となった。少子高齢化や過疎化に悩む地方にとって、「街の賑わいをどう取り戻すか」は大きな課題となっている。

そんな中、子供の教育を切り口に街の活性化を目指す新たな地域自治を実践しているエリアがある。群馬県渋川市だ。

同市では、駅前の空き店舗を「高校生の学習の場」として活用。「すたでぃばんく」という愛称の放課後自習室に生まれ変わらせた。しかも、ただ施設をつくるだけでなく、高校生や大学生、市が一体となって、“地域のつながり”を生み出している。

そんな渋川市の取り組みについて、今回、行政学や地方自治論を専門とする國學院大學法学部の稲垣浩准教授がフィールドワークを敢行。その模様を伝えつつ、この取り組みが地域自治にもたらす意味を考えていく。
制作:JBpress

profile
國學院大學法学部の稲垣浩准教授。東京都立大学大学院社会科学研究科政治学専攻博士課程単位修得退学。北海学園大学法学部講師を経て現職。博士(政治学)。主著に『戦後地方自治と組織編成–「不確実」な制度と地方の「自己制約」』(吉田書店)など。

高校生と行政のつながりを作るのは、もっとも難しい

まずフィールドワークの前に、教育を視点にした街の活性化の取り組みがなぜ必要なのかということと、取材のポイントについて稲垣先生に伺った。

──このあと、すたでぃばんくの担当者と面会します。どのようなことが取材ポイントとなるでしょうか。

稲垣(以下、敬称略):地域自治を維持していく上で、地域の将来を担うことになる児童や生徒と地域の接点を持つことは極めて重要です。

ただし、子ども会やお祭りなどのイベントがある小学生に比べて、中・高校生は部活動や受験勉強など、地域とのつながりが薄くなる傾向にあります。特に、高校は多くが県立あるいは私立として運営されており、地元市町村行政との結びつきも少なくなりがちです。

一方、近年全国的に生徒数の減少に伴う公立高校の統合再編が進められており、群馬県も例外ではありません。進学することができる地元の高校が少なくなれば、進学のために他地域へ人口が流出してしまう可能性は高くなります。

これを防ぐためには、地域で安心して学べる環境づくりもさることながら、中高生に地元への愛着を持ってもらうことが必要です。しかし、有効な施策をとることができていない自治体が多いのが現状です。

こうした中、なぜ渋川市は自習室という形をとって、高校生との接点づくりに成功したのか。しかも、そもそもの目的は空き店舗対策です。この経緯を知りたいと思います。

なぜ「空き店舗」を「高校生向け自習室」へと改装したのか

以上のポイントをふまえて、稲垣先生とともに渋川市役所を訪問した。すたでぃばんくの担当者である、渋川市教育委員会生涯学習課の山田健司氏と、渋川市商工振興課の山田量俊氏に話を伺った(ここからは、稲垣先生が聞き手)。

──まず伺いたいのは、なぜ空き店舗を活用した「高校生の自習室」というアイデアに至ったのかということです。どのような背景があったのでしょうか?

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渋川市教育委員会生涯学習課の山田健司氏。

山田健司氏(以下、敬称略):市内には市立図書館などに小さなフリースペースがあり、以前から、夕方になると高校生がそういった場所で勉強するのをよく見かけました。市庁舎の1階にも小さなスペースがあるのですが、そこに来て勉強する子もいたんです。ただ、それらだけでは十分とは言えず、「放課後に、より多くの高校生が勉強できる場所を確保してあげたい」という思いから、このプランが立ち上がりました。

山田量俊氏(以下、敬称略):市内には普通高校が2校、総合高校が1校、工業高校が1校ありますが、通学する生徒の約6割は市外からの通学生です。しかし、地元の渋川駅は1時間に1本しか電車が来ないことも多く、待ち時間に勉強したい生徒もいます。彼らの居場所を作ってあげることも重要な課題のひとつでした。

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渋川市商工振興課の山田量俊氏。

──そういったニーズが見えていたわけですね。通常、高校生は行政の施策に参加しにくいのですが、ニーズに基づいていれば彼らの足も向くということですね。ちなみに、3月末に開設されてから、利用状況はどうなっているのでしょうか。

山田健:8月末現在で、1日平均40名ほどの高校生が利用しています。定員は50名程度ですが、夏休み期間には満席となった日もありました。最初は「高校生が利用してくれるだろうか」「自習室のはずが、遊び場になるのでは」といった不安もありましたが、活発に利用してくれていますし、みな真剣に勉強していますね。

すたでぃばんくのルールを決めた、市内4高校の生徒たち

──すたでぃばんくは、施設づくりの段階から高校生が主体になったと聞きました。これについて詳しく教えてください。

山田健:2014(平成26)年に渋川駅前通り空き店舗対策特別委員会を設置し、空き店舗を高校生向けの自習室にしようと考えたのが昨年です。そこから、「空き店舗活用に関する学生連携会議」を設けました。これには、市内4高校(渋川高、渋川女子高、渋川青翠高、渋川工業高)から推薦された生徒が各3名(計12名)参加し、どのようなスペースにするかをディスカッションしました。会議は昨年7~9月に全5回、集中的に開催され、施設利用のルールや理想とする自習室のあり方を話しました。

山田量:学生連携会議には、高崎経済大学地域政策学部の学生と教授も4名参加しました。大学生の役目は、グループディスカッションのまとめ役です。高校生と年齢が近いこともあり、やわらかい雰囲気で会議が行われましたね。大人が仕切ると、どうしても高校生は硬くなってしまいますから。

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稲垣氏の聞き取り調査は続く。

──学生主体の形をとるのはリスクもあったと思います。なぜその選択をしたのでしょうか。

山田健:実際に自習室を使う高校生の意見を反映させたかったからです。子どもたちが使いやすい施設にしないと利用してくれませんので。とはいえ、空き店舗対策特別委員会の委員や生涯学習課・商工振興課の職員も数名は参加して、ある程度の方向づけは行いました。

なお、学生連携会議は昨年で終了しましたが、今は新たにすたでぃばんく運営委員会の設置構想があります。前回の連携会議のように市内各校から選出するのではなく、実際にすたでぃばんくを利用している高校生に運営委員となってもらい、会議を開いていきたいですね。

──まさに使用者自治のような形ですね。運営委員がいると、さらに市と高校生の連携がとりやすくなるのではないでしょうか。高校生と自治体の関わり方として、新しい例になるかもしれません。

すたでぃばんくは、さらなる「連携の拠点」となれるか

市役所で取材を終えた後、市の案内のもと、稲垣先生とすたでぃばんくを訪れた。

商業施設の2階にあるスペースを利用しており、1階は一般の店舗が営業している。平日は午後3時~8時、土曜は午後1時~8時まで開放され、長期休暇やテスト前の期間などは開放時間が早まるとのこと。現場には、渋川市シルバー人材センターから派遣された管理人が常駐しているようだ。

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「すたでぃばんく」内部の様子。

取材当日は雨にもかかわらず、20名以上の生徒が利用。私語は一切聞こえないほど静かに自習していた。

利用者の女子生徒(渋川女子高)に話を聞くと、「学校は放課後にすぐ閉まるため、今までは家に帰って勉強するしかありませんでした。でも、この施設ができてからはよく利用しています。家よりずっと集中できるので」と語ってくれた。

すたでぃばんくの様子を見学したあと、再び稲垣先生が聞き手となって、山田健司氏、山田量俊氏に話を聞いた。

──本当に数多くの学生が利用していましたね。静かに勉強していてびっくりしました。ちなみに、近隣住民からはどんな反応が出ているのでしょうか。

山田健:住民の方からは「この取り組みはヒット作だね」と言っていただきました。また、近隣の方にすたでぃばんく利用者のために駐輪場としてのスペースを貸していただくなど、協力していただいています。

──すたでぃばんくをきっかけに、地域と高校生がつながれる可能性も広がったと思います。今後、何か計画されていることはあるのでしょうか。

山田量:まだ検討段階ですが、地元の商店街では、歩行者天国やイルミネーションのイベントがあるので、すたでぃばんくの生徒が有志で参加する形もあると思います。しかし、あくまで勉強をしに来ている生徒なので、誘い方は配慮しながらですが。

山田健:特別支援学校との連携もできたらいいですね。特別支援学校の生徒が授業でつくった作品をここに飾るなども考えられます。そういった取り組みは、運営委員とともに考えていきたいです。

──今までは直接家に帰っていた生徒が、一度ここで足を止めて時間を過ごす。それは、地域への愛着や思い出の創出につながるかもしれません。すると、たとえ進学して地元を離れても、将来またここへ帰ってくる動機につながります。そう考えると、この取り組みは「地域の人材づくり」でもあると感じました。

山田量:すたでぃばんくを利用している生徒達も、必ずしもそのまま地元に残るとは限りません。大学進学や就職などで、いつかは市外に出て行くことになるかもしれません。しかし、「渋川という故郷で学んだ」という気持ちを持ち続けて立派な大人へと成長していってもらうことこそが、私たち市職員の願いでもあります。

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学生たちが黙々と自習している。

地域自治で大切なのは「住民のニーズを捉えられるか」

こうして、この日のフィールドワークは終了。最後に、稲垣先生に取材の感想を聞いた。

──渋川市の取り組みを調査して、どんなことを感じられたでしょうか。

稲垣:地域自治で重要なのは、いかにその地域を熟知しているかです。渋川市が高校生をうまく巻き込めたのは、現地で暮らす市の職員の方が、生活の中で高校生のニーズに気づいていたからです。

また、駐輪場の提供などに見られるように、「すたでぃばんく」の事業を通じて、地域で高校生を支援しようとする動きも広がっているようです。これはどんな行政の施策にも言えますが、住民のニーズをうまく汲み取って地域自治に生かさないと、住民主体のシステムは生まれません。

──住民が参加しやすい動機を設定するということでしょうか。

稲垣:そうですね。たとえば、渋川市の取り組みを他地域がそのまま真似しても、同じ結果にはならないんです。

また、住民主体のシステムが構築できれば、地域に対する住民の意識や関わり方は好転します。もちろんそれは、将来の地域人材を育てるでしょう。そういった人づくりの面でも、参考にすべき事例だと思いました。

渋川市のような地域自治は、日本において必要不可欠なものとなってきます。他の地域でも興味深い事例がありますので、今後も引き続き紹介していきます。

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