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『古事記』はどう読まれることを望んでいたのか。

古事記の不思議を探る

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文学部教授 谷口 雅博

2019年1月29日更新

(※画面の右上のLanguageでEnglishを選択すると、英文がご覧いただけます。This article has an English version page.

 日本最古の書物『古事記』。世界のはじまりから神様の出現、皇位の継承まで、日本の成り立ちがドラマチックに描かれています。それぞれの印象的なエピソードには今日でも解明されていない「不思議」がたくさん潜んでいます。その1つ1つを探ることで、日本の信仰や文化のはじまりについて考えていきます。

 

大仙古墳は仁徳天皇陵だと考えられている。(大阪府堺市)

大仙古墳は仁徳天皇陵だと考えられている。(大阪府堺市)

国家体制確立のために作られた歴史書

『古事記』は漢字という文字で書かれたテキストです。天皇家を中心とする歴史を記録し、後世に伝えるために作られました。

当時は、律令国家としての体制を整えるために、中国をモデルとして地誌の編纂や法律の整備など様々な政策が採られていました。歴史書としての『古事記』『日本書紀』編纂の事業もその一環であったと考えられます。

 

声に出して読む『古事記』

ところで、『古事記』はどのように読まれることを目指していたのでしょうか。

『古事記』は声に出して読むことを前提に作られたテキストであったのかも知れません。例えば、歌はそもそも声に出して歌うものですが、『万葉集』はそれを文字化し、テキスト化しました。
テキスト化したからといって、歌われなくなるわけではありません。

『古事記』には歌も含まれていますが、基本的には散文による作品です。ですが、『古事記』を作る際に最初に行ったことは、稗田阿礼に系譜や物語を声に出して唱えさせることでした。

 

太安万侶の工夫と稗田阿礼の能力

『古事記』の編纂者である太安万侶は、読みづらい漢字には読み方を示し、音読みをする場合はその旨を記し、一字一音表記を多用しています。それは、高い確率で音声言語として復元出来るように書こうとしたのではないかと思われます。

稗田阿礼は、一度目にし、耳にした文章は覚えてしまうという能力の持ち主であったと言います。稗田阿礼のような人物ならば、口頭表現のみで伝達することも可能でしょうが、その他の人びとや、後世の人びとにも声に出して読んで貰うためには、その台本となるテキストが必要である、そういうことだったのかも知れません。

 

叙事詩としての『古事記』

『古事記』にはドラマチックな話が多く記されています。歴史を人びとの記憶に刻み込み、後世に伝えるために、口承文芸としての叙事詩のようなものが求められたのかも知れません。

日本には英雄叙事詩は存在しないというのが定説ですが、ヤチホコノカミの歌物語、神武東征伝説、ヤマトタケルの東征伝説、仁徳天皇や雄略天皇の恋の物語など、『古事記』の中で英雄的な神や人物は多く歌を伴って描かれているのは、叙事詩的なものを書き残そうとした痕跡なのかも知れません。

 

~國學院大學は平成28年度文部科学省私立大学研究ブランディング事業に「『古事記学』の推進拠点形成」として選定されています。~

 

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2019年1月21日付け、The Japan News掲載広告から

 

 

 

谷口 雅博

研究分野

日本上代文学(古事記・日本書紀・万葉集・風土記)

論文

崇神紀祭祀記事の意味するもの-疫病の克服と国家の成立-(2022/04/30)

研究ノート:大碓命は小碓命に殺害されたのか(2022/03/10)

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