2016年9月、群馬県長野原町長野原にある居家以(いやい)岩陰遺跡から、縄文時代早期の埋葬人骨がほぼ完全な状態で出土しました。この発見から何がわかるのか。遺跡の調査研究に取り組んでいる國學院大學の谷口康浩教授(先史考古学)に聞きました。
発見した人骨を放射性炭素年代測定にかけたところ、約8300 年前(縄文時代早期中頃)のものと判明しました。出土状況も重要です。人骨は膝を折り曲げ、身体を丸めて、土壙(人為的に掘った墓穴)の中に丁寧に埋葬されていました。遺体は放置されたのではなく「屈葬」という形式で埋葬されたことがわかります。その結果、この人骨は埋葬されたものとしては国内最古級のものだとわかったのです。そして死者を丁重に弔う精神文化がこの時期にまで古くさかのぼる事実がはっきりしました。
現在、出土人骨の同位体分析やDNA 解析などの最先端の手法を用いた科学的分析が進められており、年齢や性別、健康状態、食生活、遺伝的なルーツが明らかになることが期待されています。
●出土した人骨
この場所は、約1万5000年前から人々が暮らしていたと考えられており、火を焚いた灰が堆積していました。そのおかげで土壌がアルカリ性に保たれ、埋葬人骨が非常によい保存状態で残っていました。
●岩陰遺跡
遺跡には最古の土器文化である「草創期」の遺物層が残っており、縄文時代が始まる頃の生活史を探る新たな手がかりが得られると期待されています。
●埋葬
埋葬場所は生活空間のすぐそばでした。雨の降り込まないところを選んで埋めたようです。現代人とは「死」の感じ方が違っていたのかもしれません。