去る平成26年11月22日(土)に、公開「模擬裁判員裁判」を開催しました。
裁判員制度が2009年5月からスタートして5年が経過しました。本法科大学院では、裁判員裁判がスタートしたことを踏まえ、臨床教育の一環として、法律家を目指す法科大学院学生が、法律の専門家ではない裁判員の皆さんに理解していただける新しい法廷活動を修得することを目的とした授業を必修科目として行ってきました。公開「模擬裁判員裁判」は、毎年、この授業の集大成として行うもので、今回で6回目の実施となります。 これまでは常磐松ホールで行ってきましたが、今年は、120周年記念館の法廷教室で行いました。傍聴席が満席になる盛況ぶりでした。
「裁判員」には、毎年、渋谷区に在住もしくはお勤めの一般の方にお願いし、地域の皆様にも、国民と法律専門家が協働する新しい裁判制度を体験していただいています。裁判官、検察官、弁護人の法曹3役には本法科大学院の2年生が扮し、被告人・証人役は、この授業の指導を担当する渋谷パブリック法律事務所の弁護士が担当します。
今年度の刑事模擬裁判で取り上げた事件は、強盗致傷事件です。強盗に入って被害者に怪我をさせた犯人が、実は被告人に指示されて行ったと供述したため、被告人も強盗致傷事件で裁判を受けることになりました。被告人は強盗を行った犯人とは話し合ったことなどないと否認しています。
裁判では、共謀があったかどうかが争われました。学生たちは、「どのような論点を、どのように説明すれば裁判員と裁判官を説得できるか」を授業で学んできましたが、冒頭陳述から証人尋問、論告・弁論まで実際の裁判さながらに法廷活動を行いました。
法科大学院における模擬裁判は、すでにあるシナリオに沿って、そのとおりに演じていくという例が多いのですが、本学の模擬裁判員裁判にシナリオは一切ありません。証人尋問や弁論の内容は、記録や証人・被告人役の弁護士からの事情聴取に基づいて、学生たちが、四宮啓法科大学院教授や渋谷パブリック法律事務所の弁護士のアドバイスを受けながら、練り上げたものです。
裁判員役を担当していただく一般の方は、当日初めて、裁判官役の学生から裁判員としての役割のレクチャーを受け、法廷で初めて事件の内容を知るのです。法科大学院の学生にとっては、授業で学び、磨きあげてきた法廷技術が、一般の方に通用するか、試されることになります。
【裁判内容】
起訴状朗読等冒頭手続(5分)
冒頭陳述(検察官5分、弁護人5分)
書証・物証取調べ(5分)
証人尋問1 山手章証人(強盗犯人)(検察官20分、弁護人10分)
証人尋問2 梅原貴子証人(被害者)(検察官15分、弁護人10分)
被告人質問(弁護人20分、検察官20分)
論告・求刑(検察官10分)
弁論(弁護人10分)
裁判官・裁判員評議 (90分)※非公開
判決言い渡し
検察官も弁護人も、立ち位置から話し方も含め、わかりやすくかつ説得的な説明を尽くします。証人から現場の状況を聞き出す場面では、図面を使って位置関係を説明してもらったり、物証を利用するなど工夫が凝らされていました。裁判官役の学生も、法廷での審理をテキパキと進めていきました。 証人尋問では、裁判員の方からも、専門家をハッとさせるような質問もあり、本番さながら緊迫した雰囲気の中、進められました。 検察官は共謀が認められるとして、懲役8年を求刑し、弁護人は共謀は認められないとして無罪を主張し、審理が終わりました。 その後、裁判員、裁判官による別室での1時間半の評議は非公開でしたが、とても白熱したようです。評議の後、判決が言い渡されました。裁判長の声が法廷に響きます。「被告人は無罪」。裁判員と裁判官の評議の結果、共謀を認めるには疑問が残るとの結論でした。 終了後、裁判員の方からは、「他人の意見を聴くことの大切さを知った」「人を裁くことの難しさを実感した」「とても良い経験だった」などの感想が述べられました。
裁判員・裁判官の中でも、意見が分かれました。 今年は、法科大学院1年生から4名が「裁判員チーム」として参加してくれました。法科大学院1年生チームの結論も「無罪」でした。
今年は、本法科大学院における臨床法学教育を担当するため、本学と東京弁護士会が学内に弁護士法人渋谷パブリック法律事務所を開設してちょうど10周年の記念すべき年に当たります。そこで、模擬裁判終了後、裁判員と裁判官が非公開で評議を行っている間、法廷教室において、渋谷パブリック法律事務所開設10周年記念のイベントが開かれました。はじめに同法律事務所の10年の歩みを振り返り、その後、同法律事務所において、実際の事件を教員弁護士とともに担当する授業である「リーガルクリニック上級」を履修し法曹資格を取得した修了生4名によるパネルディスカッションが開かれました。参加してくださった修了生は、田口雄一郎さん(國學院大學)、田中康敦さん(明治学院大学)、知念よしのさん(東海大学)、渡辺翔さん(獨協大学)の4名です。リーガルクリニックという教育方法の重要性について、経験に基づいて語り合っていただきました。
裁判員裁判終了後、会場向いの「カフェラウンジ若木が丘」において、懇親会が催されました。緊張から解放された出演者は、裁判員役の方々となごやかに歓談していました。
今回、裁判員としてご協力いただきました地域の方々、傍聴人としてご見学いただきました皆様に、心より感謝申し上げます。