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熱い夏が証明した、「育成」と「データ」のたしかな関係性

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人間開発学部准教授 神事努

2019年2月14日更新

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 2018年8月21日、阪神甲子園球場──。

 100回という大きな節目を迎えた夏の甲子園で、決勝まで勝ち上がったのは、金足農業(秋田)と大阪桐蔭(北大阪)。「東北勢の初優勝」と「2回目の春夏連覇」という対象的な“史上初”をかけた一戦では、金足農業のエース・吉田輝星投手が、王者・大阪桐蔭にどこまで通用するかに注目が集まった。結果は13-2で大阪桐蔭の圧勝に終わったが、準々決勝まで4試合連続で2桁奪三振を記録するなど、ストレートを軸に三振の山を築いた吉田投手には最大級の賛辞と評価が贈られることとなった。

 大会が終わったあとも、ちょっとしたフィーバーを巻き起こしている金足農業だが、今回の決勝進出は偶然の産物ではない。その裏には、県をあげて取り組む「高校野球強化プロジェクト」の存在があった。

 プロジェクトが発足したのは2011年。秋田県勢が、夏の甲子園において13年連続で初戦敗退を喫したのがきっかけだった。優れた指導者の招聘や、強豪校を招いての強化招待試合の実施など、その内容は多岐にわたるが、その一環として行われたのが「スポーツ科学」の側面からの支援。最新の軌道計測器で球の回転軸や回転数などをデータ化し、そのデータをもとに専門家から実践的なアドバイスを行うものだが、そのデータ解析・指導を行ったのが、健康体育学科の神事努(じんじ・つとむ)准教授なのだ。

 

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 神事准教授がスポーツデータに興味を抱いたきっかけは、自身が教えを受けた野球のコーチの“昔ながらの指導”だった。

 「私自身、大学まで野球をやっていたのですが、ある日のバッティング練習でコーチから『軸でまわれ!』と言われたんです。自分なりにそれを理解して体現しようとしましたが、考えれば考えるほど『軸ってなに?』という疑問にぶつかって、どうやっても解消できなかったんですよ。焼き鳥みたいに、私の体に何かが串刺しになっているわけではないですから……。そのときに『抽象的な指導内容を全員が共有するには、どうすれば良いだろう?』と考えて、行き当たったのが“数字”というツールでした。カラダの動きを、数学や物理を使って解明していく──これが、自分自身を納得させるためのひとつの答えだったんです」

 とはいえ、これはいまから20年ほど前の話。現在ではアメリカのメジャーリーグをはじめ、さまざまなスポーツにデータ解析が導入されているが、それを実現するには、データを収集するための高性能な機器が必要になる。実際、メジャーリーグでは、軍事技術を応用した超高性能レーダーが導入されているほどだ。

 「当時は優れた計測器があるわけもなく、“データを作り出す”ところから自分でやっていましたね。わかりやすいもので言うと映像解析。定性的な素材である“映像”から、数値を抽出し、座標変換や微分・積分を駆使して、ようやく意味のある定量的な“データ”になる──そういう時代でした」

 素人が聞くと、とんでもなく大変な作業のように感じるが、機器が発達したいまだからこそ感じられるメリットもあるという。

 「機器が高度になり、数値を算出する作業も断然ラクになりましたが、逆に言うと機械任せになりすぎて、算出のプロセスがブラックボックスなんですよ。要するに“その数字がどうやって導き出されたのか”がわからない。自分で導き出す作業を飽きるほどやったので、優れた機器ありきで研究されている方よりも原理が理解できているだろうし、その点では得しているのかもしれませんね。なにせ、デジタルデータだけでなくアナログフィルムの分析からやっていましたから(笑)」

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 では今後、このスポーツデータをどのように活用していくべきなのだろうか?

 「まずは、“テクノロジーの進歩”と“スポーツのおもしろさ”はリンクしていると思います。実際にメジャーリーグのTV中継では、ピッチャーが投げた球の回転数や軌道から、バッターの打球速度や飛距離までが即座に視聴者に提供されます。それを見て『やっぱり大谷はすごい!』とか『ダルビッシュの変化球はエグい!』とか、一喜一憂できますよね。ただ私は、データ解析というものを、TV観戦を盛り上げる“だけ”のツールとして捉えているわけではありません。長い目で見て、野球をはじめとしたスポーツ全般を盛り上げていくために、データ解析は“育成”に使われるべきだと考えています」

 いちスポーツファンの視点からだと、つい目先のエンターテインメント要素に目がいってしまうもの。だが神事准教授は、観戦を盛り上げるためのツールとして一般に普及・認知されたデータ解析を、ゆくゆくは選手育成のために活用すべきだと語る。

 「夏の甲子園の結果を受けると、もっともわかりやすい例が、秋田県と一緒に取り組んだ強化プロジェクトということになりますよね。1・2年で、というわけにはいきませんが、数年で目に見える成果をひとつ出せたのはすごく大きかったと思います。これを好例として、同じく高校野球の現場や、なんならプロのコーチングにも取り入れていただきたいのですが……そこで難しいのが、いまだに“誰が言ったか”や“誰がやったか”次第なんですよね、正直なところ。『◯◯選手がやっているから良い理論』、『◯◯選手が失敗したから参考にならない』という議論になりがちなんですが、本来は『客観的なデータに基づいて◯◯選手が取り入れている』わけですから。たしかに、いま50代・60代のコーチに『最先端のデータに基づいて指導を』と言っても難しいとは思います。でも、30代・40代のコーチは、少なからずデータを取り入れて“指導の見える化”を実践していかないと、いずれ淘汰されてしまうのではないでしょうか」

 そしてもうひとつ、データ解析を指導に導入することにおいて、一般的に言われている懸念がある。「指導が見える化・画一化すればするほど、選手の個性が際立たないのでは?」という議論だ。

 「それについては問題ないですね。というのは、データに基づいて目指すべき“ゴール”がわかったとしても、そこに辿り着くため“道のり”が選手によって全然違うからです。大事なのは、選手自身が、自分の動きを“言語化”できるようになること。誰がやってもうまくなれる王道があったら、そりゃ苦労しないですが、データ解析はそういう意味で万能ではありません。その選手の個性を伸ばし、短所を補うためにも、身体動作の客観視は必要なものなのです」

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 日進月歩のデータ解析と、それを先端で引っ張る神事准教授。では、その目指すところは、いったいどこにあるのだろうか?

 「大学からは怒られちゃいそうですけど……私、球団のGMをやりたいんですよ(笑)。いまの日本では絵空事だと笑われてしまうかもしれませんが、メジャーリーグではエンジニア出身者がGMをやる時代です。元選手や、大企業のお偉いさんだけがやるのではなく、選手育成の専門家としてデータアナリストがGMになる──日本にも、そういう時代がきてほしいものですね。もちろん、ただ選手がうまくなれれば良いわけではありません。指導者と選手が同じ方向を向いたうえで競技のレベルが上がる、見る側の楽しみ方も増える──データ解析は“スポーツの価値”を高めることに寄与できる学問・分野だと信じて、この20年を歩んできて、ようやく時代が私の研究に追いつきましたからね(笑)」

 

 

 

 

神事 努

研究分野

バイオメカニクス

論文

Middle finger and ball movements around ball release during baseball fastball pitching(2017/04/01)

Radio-ulnar joint supinates around ball release during baseball fastball pitching(2016/04/01)

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