ARTICLE

親会社の株主が子会社の取締役を訴える「多重代表訴訟」制度とは

  • 法学部
  • 在学生
  • 受験生
  • 卒業生
  • 企業・一般
  • 政治経済
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

法学部教授 鈴木達次

2014年11月17日更新

img_01

訴訟のリスクが増える改正会社法に注意

平成26年6月27日に公布された改正会社法をご存じでしょうか。来年の平成27年4月1日に施行されることが有力視されています。

改正の目玉のひとつに「多重代表訴訟」の制度があり、これまでの自社の株主から訴えを提起される一般の「株主代表訴訟」に加え、一定の要件の下では、取締役は親会社の株主から訴訟を提起されるリスクを伴うことになります。もちろん、一般の代表訴訟の場合と同様、訴訟を提起されても、取締役自身に落ち度がない場合には裁判で責任を認められることはないのですが、いったん訴訟が起きると、それに対応しなければならず大変な苦労を強いられることになります。

「多重代表訴訟」は、株主が一定割合の株式を保有していなければならないなど、提起に厳格な要件が設けられていること等から、大規模なグループ会社よりも中小規模のグループ会社の取締役のほうが対象となる可能性が高いといわれています(新谷勝・詳解改正会社法(平成26年・税務経理協会)259ページ以下参照)。

「株主代表訴訟制度」と純粋持ち株会社

株式会社の取締役は経営上のミスに対して会社に損害賠償を行う責任があります。しかも会社がその取締役に損害賠償を請求することは業務執行のひとつですから、建前上は業務執行機関である取締役(会)が責任を追及する権限をもつはずです。しかし、仲間ともいえる他の取締役を訴えることはなかなかできることではありません。監査役設置会社では、監査役にその権限があるとされるなど制度上の工夫がみられますが、それでも十分ではないことは明らかです。そこで、会社の所有者である株主が取締役の責任を追及することができる「株主代表訴訟」が昭和25年の法改正で制度化されました。

その後、平成9年になって独占禁止法の改正により、「純粋持ち株会社」(他の会社の株式を所有することによりその事業活動を支配することを主たる事業とする会社のことです。いわゆる●●ホールディングスという商号を持っているものの多くはこれです)が認められるようになり、これに伴い、既存の事業会社が持ち株会社を作りやすくするため等の理由から、平成11年に商法が改正され「株式交換」や「株式移転」と呼ばれる特別な制度ができました。現金の代わりに株式を使い、100%の親子会社関係を創設できる仕組みです。

その結果、純粋持ち株会社に事業会社がぶら下がる体制をとるグループ会社が増えてきました。しかし、これまでの株主にとっては、株式を持っている会社の子会社が事業を行うことになるので、事業会社の取締役の責任を追及する「株主代表訴訟」を起こすことができなくなります。そこで、平成26年の改正で導入されたのが、一定の要件の下に親会社の株主が子会社の取締役に対して提起できる「多重代表訴訟」制度です。

「多重代表訴訟」の提起要件と注意事項

そもそも、取締役が善管注意義務に違反したこと等により会社に損害を与えた場合には、会社に対して損害賠償責任を負うことになります。そして、その履行を求めるために提起されるという点では一般の「株主代表訴訟」も「多重代表訴訟」も同じです。

その違いは誰が提起できるかという点で、一般の代表訴訟では、原告は、その会社の株主であるのに対し、多重代表訴訟では、原告は、一定の要件を満たした親会社(最終完全親会社等)の株式の1%以上を保有している株主です。そのうえ、子会社の株式の帳簿価額が、最終完全親会社等の総資産額の5分の1を超えていることが訴訟に必要な要件となります。

なお、ここで「最終完全親会社等」という耳慣れないコトバが出てきますが、これは、非常に複雑な概念で、(1)完全親会社、(2)完全親会社等、(3)最終完全親会社等という3段階に分けて理解する必要があります。まず、(1)完全親会社とは、特定の株式会社の発行済み株式の全部を有する株式会社その他これと同様のものとして法務省令で定める株式会社のことをいいます(会社法847条の2第1項)。次いで、(2)「完全親会社等」とは、(a)ある株式会社(A社)の完全親会社、または、(b)A社の発行済み株式の全部を他の株式会社(B社)および(もしくは)B社の完全子会社等(B社がその株式・持ち分の全部を有する法人。なお、会社法847条の3第3項参照)が有する場合のB社、のいずれかをいいます(会社法847条の3第2項)。そのうえで、(3)「最終完全親会社等」というのは、ある株式会社の完全親会社等であって、その会社にとっての完全親会社等がないものをいいます(会社法847条の3第1項)。

いずれにしても、全ての親子会社関係に適用されるわけでも、最終完全親会社等の株主であれば誰でも原告となれるわけではありません。一般の代表訴訟では、ある会社の株主であれば1%以上株式を保有していなくても訴えを提起できますので、その点では大きく違っています。「多重代表訴訟」の制度化に際し、現行法でも十分といった声やグループ経営のメリットを減殺させるといった意見があったことから、「株主代表訴訟」よりも厳しい要件となったのです。このような点から、前述したように、現実的には、大規模なグループ企業では要件を満たすことは困難であり、むしろ中小規模のグループ企業の方が訴訟のリスクをはらんでいるのではないかと推測されています。

多重代表訴訟でも、一般の代表訴訟と同様、取締役の会社に対する責任が追及されるのですから、取締役の善管注意義務違反が問われます。そのため、普段から取締役自身がミスのない業務執行を心がけておくとともに、会社法の定める「内部統制システム」にも気を配っておくことが重要になります。また、善管注意義務を怠っていないことを証明するために、証拠を残しておくことが大切で、例えば取締役会で議論された施策に対して反対した場合には、そのことを議事録に明記させておくことが必要です。

MENU