天皇陛下の譲位による「御代替わり」まで5か月余りと迫った。江戸時代後期の光格天皇以来200年ぶり、日本国憲法下では初となるだけでなく、難しい用語や仕組みのためか皇位継承の本質が見えてこない。
「平成最後の日」となる平成31年4月30日の「退位の礼」から半年にわたって、政府の皇位継承式典準備委員会が決定した一連の儀式や行事が行われる。準備が進められる御代替わりについて、皇室制度や皇位継承を改めて見つめつつ「日本に暮らす者として知っておきたいこと」について神道文化学部の藤本頼生准教授が解説する。
「即位」とは何か?
問 来年は「御代替わり」となるが、実際にはどのようなことか
答 天皇の在位期間を「御代」といい、それが「替わる」こと。今の陛下が天皇の位を皇太子殿下に譲られることを指して「御代替わり」といい、一連の儀式が行われる。
問 天皇陛下は退位されるのか
答 政府の公式用語では「退位」だが、高齢となった天皇の在り方や崩御による混乱を心配し、天皇の務めが安定的に引き継がれることを願われた陛下のお言葉(平成28年8月発表)から推し量ると、その実態は「譲位」だと思う。「譲位」とする場合は皇位を受け継ぐ「受禅」もセットとなる。
位を譲られた後は「天皇の退位等に関する皇室典範特例法」の規程に従って天皇陛下は「上皇」に、皇后陛下は「上皇后」となられる。ただし、伝統的には「太上天皇」「皇太后」との称号が使われてきたことを忘れてはならない。
問 新たな天皇の即位は
答 譲位の翌日から皇太子殿下が新天皇となられるために一連の儀式が始まるが、一代一度きりの儀式は「御大礼」「御大典」とも呼ばれる。「践祚(せんそ)」「即位」「登極(とうぎょく)」といった独特の言葉も登場するが、どれも意味は同じで「皇位(天皇の位)を受け継ぐ」ということ。それぞれ「天皇が儀式のために登る『祚』という階段を践(ふ)む」「皇位に即(つ)く」「皇位という極(きわみ)に登る」という意味だ。
かつては、皇位を継承する儀式を「践祚」と呼び、継承したことを宣言して祝意を受ける儀式を「即位」と呼び分けてきたが、現在の皇室典範では「即位」の語しか記されておらず、「踐祚」の意義が薄れてしまっている現状にある。
問 「国事行為」「皇室行事」などがあるが
答 国会への出席など、憲法が定め内閣の承認と助言のもとで行われるものが「国事行為」。その他の行為のうち、皇室が受け継いできた伝統的な祭祀などが「皇室行事」に当る。
「改元」そして元号とは何か?
問 御代替わりでは変わるものは
答 身近なものは「元号」だろう。天皇ご一代につき、1つの元号という「一世一元」の制度が明治時代にできたので、来年も4月30日までは「平成」だが、新天皇が即位される5月1日に新たな元号に変更する「改元」がある。政府の発表によると、新元号の公表は改元の1カ月前に予定されている。
問 そもそも元号とは何か?
答 東アジアの国々で「年」を表現する方法の一種だ。日本では大化の改新(645年)の時にできた「大化」が第1号で、現在の「平成」まで1400年近くにわたって247もの元号が使い続けられている。
改元される理由としては、御代替わりに際して行われる「代始改元」、おめでたいことが起きた事を祝う「祥瑞改元」、天災や疫病などの災厄を断ち切る「災異改元」などがある。
問 「元号」とは奥が深い
答 これまでで一番長かったのは「昭和」の64年で、次が「明治」の45年。「平成」の31年は4番目。中国の古典などからおめでたい文字を選ぶことになっており、これまでに72文字が使われ、最多は「永」の29回。「平成」の「平」は12回使われているが「成」は1回だけ。漢字2文字が原則だが、「天平感宝(てんぴょうかんぽう)」のように4文字の元号も5回あった。
問 御代替わりで世の中に影響は出るのか
答 西暦2000年を迎える直前に「Y2K」騒動があったが、それと同様にコンピューターがトラブルを起こさないようシステムを改修する作業がスタートしている。昭和天皇が崩御された30年前は自粛ムードが広がり、新聞から広告が消えたり、テレビCMの音声が一部カットされたり、イベントも中止されたりしたが、今回は混乱を回避できる見通し。
問 ゴールデンウイークの休みも増えるという話だが
答 新天皇が即位される5月1日を祝日とした場合、祝日法の規定で4月30日と5月2日も休日となる。4月27日の土曜日から振替休日となる5月6日まで、最長10日間の超大型GWとなる可能性もある。「即位礼正殿の儀」が行われる10月22日も祝日とする検討が政府では行われている。ただし。これらの休日は来年限りとなるので注意が必要だ。
政府準備委員会が決定した譲位と即位の一連の行事
退位の礼 | ||||
4月30日 | 退位礼正殿の儀 | 天皇陛下が皇太子殿下に位を譲ることを宣言される儀式だが、日本国憲法下では初めてのため詳細は不明。 | 国事行為 | 皇居・宮殿 |
即位の礼 | ||||
5月1日 | 剣璽等承継の儀 | 「八咫鏡」「天叢雲剣」「八尺瓊勾玉」は天照大神から受け継がれてきた皇位の象徴として「三種の神器」と呼ばれる。承継の儀では、皇居・剣璽の間に安置される剣の形代(かたしろ=写し)と璽(じ=勾玉)に加え、天皇と国の印章である御璽と国璽が新天皇に引き継がれる。皇位が速やかに継承されたことを表す儀式。 | 国事行為 | 皇居・宮殿 |
即位後朝見の儀 | 新天皇が国民を代表する三権の長らと会見し、即位を宣言。 | 国事行為 | 皇居・宮殿 | |
10月22日 | 即位礼正殿の儀 | 玉座に相当する「高御座(たかみくら)」に新天皇が、「御帳台(みちょうだい)」に新皇后がそれぞれ立たれ、即位したことを宣言。 | 国事行為 | 皇居・宮殿 |
祝賀御列の儀 | パレードで国民の祝福を受ける。 | 国事行為 | 東京都内 | |
10月22日から数日間? | 饗宴の儀 | 国内外の賓客を招いて即位を披露する宴 | 国事行為 | 皇居・宮殿 |
10月23日 | 首相夫妻主催晩餐会 | 儀式参列のため来日した賓客に日本の伝統文化を披露し、来日への謝意を示す宴。 | 内閣行事 | 東京都内 |
大嘗祭 | ||||
11月14~15日 | 大嘗祭 | 新天皇が初めて、神々に収穫した稲を供え、感謝するとともに国家・国民の安寧を祈る儀式。皇居東御苑に大嘗宮が設けられる。 | 皇室行事 | 皇居東御苑 |
藤本 頼生
研究分野
近代神道史、神道教化論、神道と福祉、宗教社会学、都市社会学
論文
「国家ノ宗祀」の解釈と変遷について(2023/06/30)
『THE SHINTO BULLETIN Culture of Japan』Vol.1 Uzuhiko Ashizu「The Shinto and Nationalism in Japan」 Yoneo Okada「The Faith in the Ise Shrine」について(2023/06/30)