ARTICLE

大学経営を語ることが、大学と社会との距離を近づける鍵となる
【戸村理・教育開発推進機構准教授】

  • 全ての方向け
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

教育開発推進機構准教授 戸村理

2018年4月28日更新

 %e6%88%b8%e6%9d%91%e5%85%88%e7%94%9ftop    2人に1人が四年制大学に進む現在であっても、大学という存在は、自分たちの世界からどこか“遠い”ものに思われがちかもしれない。そんな大学を、わたしたちの社会にとってもっと“身近なもの”にするにはと考え、独自の研究をおこなっているのが戸村理・教育開発推進機構准教授である。
 國學院大學で“大学経営”についての研究を進め、『戦前期早稲田・慶應の経営 近代日本私立高等教育機関における教育と財務の相克』という研究書も発表。高等教育機関の経営史という研究分野を開拓する若手研究者だ。歴史的、経営的に大学を理解することが、なぜ大学と世の中を近づけることにつながるのか?その熱い胸の内を聞いた。
 
 
 お金の問題って、誰でも気になってしまいますよね。私は誰もが大学のことに興味をもってもらいたいと思っているのですが、お金のことだったら皆さん興味があるのではと考え、研究を進めています。
 私が研究しているのは、教育学・教育社会学と呼ばれる学問のなかでも、高等教育論、特に四年制大学の歴史なのですが、そのなかでも大学経営にかんして財務に注目して歴史的な視点で研究をしています。
  %e6%88%b8%e6%9d%91%e5%85%88%e7%94%9f2 
 そもそもなぜ、大学に対して皆さんに興味をもってもらいたいと思っているのか。それは、私が大学生の頃、学生として勉強を進めるなかで感じていった、大学とその外――つまりは社会の人々との間の“距離”に関係があります。
 私は幸いにも大学で勉学を修めることができましたが、大学に通った経験のない人にとっては、大学はとても“遠い”存在に感じられるはずです。一方で大学生活を経験した人や、今まさに大学に身を置いている人にとっても、“大学とは何か”と尋ねられた時に、何と答えてよいのかわからないかもしれません。
 
 一方で長い歴史を刻んできている大学を、経営、そして組織づくりの側面から解き明かすことは、流動的な時代のなかで持続可能な組織を形成していくためのヒントになるはずです。
 大学はそんな遠いものじゃないんだ、と私は思っているし、皆さんにもそう思っていただきければ、大学で学んできた身として嬉しいです。大学を成立させているお金の話をすることで、身近に感じてもらおう――それこそが、私が大学経営の財務の歴史的な研究をしてきた大きな動機なんです。
 
 そもそも、大学は私立であろうと公的な機関ですから、開けた“場”そのものであるはず。年齢にしても、十八歳を中心に入学するところというイメージが一般的にあるでしょうが、いろんな年齢層やさまざまなバックグラウンドの人がひとつの場所に集まって何かを成し遂げていくのが、大学本来の多様な姿です。
 
 たとえば大学で良い教育・良い研究を行えば、国内外から優秀な学生や研究者が集まってきます。そこでさらに充実した教育・研究が行われ、彼らがふたたび国内外に展開していけば、また人があつまり、豊かなフィードバックも得られて、発展的な環境が生まれていきます。
 
 しかしその循環を作るには、すくならかずお金が必要です。限られた財源のなかで大学は、教育・研究の両方においてどうすればベストパフォーマンスを発揮することができるのか、考えるわけです。そして大学も他の組織と同じく学生や教職員といった“人”で構成されていますから、彼らへの処遇が悩みどころになります。
  %e6%88%b8%e6%9d%91%e5%85%88%e7%94%9f3 
 私はこうした大学をめぐる難題に、たとえば戦前期のきわめて経営が苦しかった早稲田大学・慶應義塾大学がどう取り組んだのか、ということを研究してきました。記録として残されている給与帳簿や寄付者名簿などをじっくりと調べ、どういったジャンルの、どんな教員にいかなる処遇をして、その教員がどれだけの授業コマでいかなるクオリティの授業をしていたのかといったことを明らかにしてきました。記録を辿っていくと、教育と財務とのせめぎ合いがわかるんです。そのバランスのとり方において、日本的な大学経営の“はじまり”の姿が見えてくる。
 これって実は、一般社会と大きく変わらないのではないですか?どのような人材をどのように処遇すれば、ベストパフォーマンスを発揮してくれるのか。私立大学の場合は、大学独自の“理念”を打ち出していく必要があり、その点も合わせて、世の中に存在する多くの組織と非常に近いですよね。
 
 にもかかわらず、大学と世の中は何か違う、遠いものと思われやすい。大学の先生にかんしても、講義をする一方で、なんだかよくわからないけれど研究なるものをしている、特殊な職業のように見えるかもしれません。ましてや大学の教員の給与のあり方や、人事権や組織はどうなっているのかなんて、なかなか想像できない話かもしれません。
 
 でもやっぱり、大学の教職員も人間ですし、そうした人々が集まってできているのが大学です。そうした大学という機関を、お金という観点からクローズアップしていくと、遠い存在のように思われている大学にも親近感をもってもらえ、大学が本来の開けた“場”になるのでは、と考えています。 
 
%e6%88%b8%e6%9d%91%e5%85%88%e7%94%9flast
 
 私の研究はお金が関係してくるため下世話な感じがしますが、下世話な話題をとりあげることには大学を親しみやすい存在にしたいという意味があるんです。難しい話だとちょっと距離を置いてしまうかもしれませんが、たとえば教員の給与というテーマなら、誰でも自分に置き換えることができる。みんなお給料をもらって生活しているんですから。
 
 日本ではお金の問題というと、とくに教育というテーマでは否定的なイメージを持たれるかもしれません。けれどその課題を解決していくことで良い教育、良い研究につながるなら、議論する価値があるし、議論しなければならないと私は思っています。
 
 これは私の個人的考えですが、歴史研究という分野は、多くの方に研究成果を読んでもらえることが一番重要だと考えています。だからこそ、誰にでも興味を抱いてもらえそうなテーマ、その成果を手にとってもらえそうな研究をおこなうことが、私にとっては大事なのです。そこからより多くの方に大学を身近に感じてもらって、大学という開かれた“場”を考えるメンバーになっていただきたいなと。より多くの人が大学についていろいろと話してもらう、議論の基礎となる土壌、いわば“アゴラ”を提供するのが私の役目だと思っています
 
 今後は大学の経営の歴史というものを国際的な視野から研究していきたいと考えているところです。インターネットを通じたヴァーチャルな大学というあり方も今後増えていくと思いますが、そうしたネット空間の大学であっても、人々が知を求めて集まっているわけですから、大学の本質はゆらいでいません。それをどのように構築していくのか、そのリアルな生身の部分を皆さんに提示して、一緒に考えていける素地をつくれれば――それこそが、私が研究に懸けている思いです。

 

研究分野

教育学・教育社会学、高等教育論

論文

「授業評価アンケートから見た授業外学習時間に関する基礎的考察」(2018/03/01)

「米国リベラルアーツ・カレッジの経営とその危機―スイートブライヤー・カレッジの閉鎖とその撤回を巡る分析―」(2018/03/01)

このページに対するお問い合せ先: 広報課

MENU