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「モノ」から「心」を感じる
國學院大學博物館

笹生衛館長が語る「國學院の学問」

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國學院大學博物館館長・神道文化学部教授 笹生 衛

2018年5月16日更新

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 國學院大學136年の歴史を通じて蓄積してきた研究成果を、広く一般にも公開するために設立された「國學院大學博物館」。樋口清之博士の寄贈による考古資料を基にした「考古学陳列室」創設(昭和3年)から90年を迎え、平成25年に「國學院大學博物館」に改称してから4年余りで通算来館者が20万人を突破するなど高い評価を得ている。「神道」「考古」「校史」の常設展示エリアには国指定の重要文化財を含む貴重な資料が並び、渋谷・若木が丘から開かれた「窓」ともいうべき存在となっている。パソコン、スマホといったデジタル端末から簡単に欲しい情報が入手できる昨今、あえて足を運ばなければならない「アナログな博物館」にこだわる理由について笹生衛館長(神道文化学部教授)は「博物館では現物を目にして感じてもらうことが大切。日本の歴史と文化を継承する役目を負う施設として、『モノ』から『心』までつながる当館にしかできない役割を果たしたい」と強調している。

―國學院大學博物館はどんな施設でしょうか

笹生館長 國學院大學は「モノ」と「心」を大事にしています。考古学の遺物研究は多くの大学・研究機関で行われていますが、そこから精神性まで探ろうという研究はあまり行われていません。古事記や日本書紀の記述に照らして復元していこうというのが、大場磐雄先生以来の國學院の学問で、我々の仕事もその延長線上にあるわけです。それを「かたち」として表すのが博物館の役割になります。

 具体的な展示は「神道」「考古」「校史」の三本柱。考古学では樋口清之先生の時代から続く考古学陳列室が核にあり、平成20年に伝統文化リサーチセンター資料館が開館、25年に國學院大學博物館に改称しました。

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  國學院大學の学風は、母体である皇典講究所から続く日本の伝統の基になる歴史研究や神道・国学研究の蓄積の上にあるわけです。それを「モノ」として具体的に示すのが博物館であると整理すると分かりやすい。館内には折口信夫先生の資料もありますし、先生の山荘の書斎も再現しています。ぜひ、ご覧いただきたいですね。

日本文化を継承するためにも

―デジタル全盛時代に、あえてアナログな博物館の存在意義とは

笹生館長 「現物を見た時に何を感じてもらえるか」に尽きます。文書なども最新技術を駆使した高精細画像で形などがクッキリと分かる時代ですが、文字の大きさや風合い、紙の状態までは分かりません。須恵器という古代の焼き物がありますが、これをロクロで削る時にどうしたかというと、内側に「当て具」という道具を置いて固定し、半乾きのうちに回してヘラで削りました。須恵器の内側を見ると、その工人の指紋や指の跡も残されていますので、「人間が作っているんだなぁ」と分かります。授業で使わせてもらっている須恵器は聖徳太子の時代(飛鳥時代)のものですが、その当時の工人の指跡などが確認できます。その場で「モノ」を見る、人間が感じる・・・これが博物館の重要な役割だと思っています。

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 人間が「モノ」を見るということは、ただ単に情報として見るのではなく直感があるわけです。その直感は液晶画面上のデジタルデータでは半分ほどしか得られません。自分の意思に基づいて様々な見方をできることが、現物を見ることの醍醐味ですね。その場で「モノ」を見る、直感する・・・これが大切です。

 とはいえ、デジタルが悪いということではありません。広く人々に知ってもらわないと現物の良さにたどり着いてもらえませんから、「歴史に興味の無い人を現物に導くツール」としてデジタルミュージアムの構築も進めています。詳しく知ってもらうには博物館に足を運んでもらうという2段構えですね。歴史好きではない人を引き込むことは、日本文化を継承していくうえでも必要です。様々な面で、意図的に日本文化を残さねばなりませんから、日本を理解する「入り口」としてのデジタルの位置づけは重要です。

日本列島と災害、そこから学べること

―「歴史と文化から学ぶ」とは

笹生館長 日本の文化や歴史について考えてみましょう。例えば、和菓子にしても四季ごとにテーマがあって、それをデフォルメしながら季節を象徴する形にしていきます。なぜできるかというと、自然を観察しているからです。よく観察していないと色々と見落としてしまう。災害の多い列島で生きる日本人は、自然が引き起こす働きを非常に細かい眼差しで観察しています。火山が噴火すれば、それは山におられる神様の働き(怒りの表れ)としてお祭りします。お供えをして神の怒りを鎮めようということですね。災害の多い中で日々の生活を維持していくことが命題ですから、環境を感覚でどう捉えるかが重要になってくると思います。観察することが生存や減災につながる。自然を感じ取ることが日本文化の原点なのです。

 私は研究室のある若木タワーで「3・11」を経験しましたが、日本の歴史や文化を考える時に「災害」の占める地位は大きいと改めて感じました。東北の震災被災地も回らせてもらい、「ここまで津波がきたのか」という想像以上の現実を目の当たりすると、(歴史や文化から)自然の働きを慎重に見ていくことで災害の広がりを抑えることができたかもしれません。「災害時の行動が日本文化を作ってきた」と思わずにいられません。

 「学修」も博物館の大きな役割ですが、学生には「勉強のため」ではなく、自分の好きなものを見つけてそれを楽しみに来館してもらいたい。授業で博物館に連れて行く時には、時代による違いを探して自分の口で説明してもらうなど、能動的に観察することを覚えてもらいます。そのためには楽しむ、「モノ」に対して興味を持ってもらうことが大切です。博物館の収蔵資料を楽しみながら、そこから感じ取り、多くのことを学んでもらいたいですね。物事を観察する「眼」を養ってもらうという意味でも、博物館の役割は日本文化の継承につながるのではないでしょうか。

「渋谷」でつながる。可能性も広がる

―平成26年度から取り組んできたミュージアム連携事業の成果は

笹生館長 渋谷には様々な美術館や博物館がありますが、國學院大學が持つスキルのほか、山種美術館や白根記念渋谷区郷土博物館・文学館、岡本太郎記念館などそれぞれの特色が調和できたことが収穫です。山種美術館で日本画を見てから当館に来ていただくと、日本文化を多面的に見ることができます。岡本太郎記念館とは縄文文化と現代美術という切り口で展示をしました。一つのテーマを様々な面から見ることができ、大きな意味があったと考えています。

 連携によって展示も研究も新たな可能性が広がります。2月の特別展「いのちの交歓」はラジカルな感じもしましたが、当館だけではできない展示で岡本太郎記念館との連携によって初めて実現しました。山種美術館とのコラボレーションでは、日本画のテーマになる「モノ」を考古学や神道の側から見るとどうなるのかといった展示も面白いと思います。単に美術、美術史、考古学、神道史ではなく、日本文化史の多面的な研究ですね。今は文系・理系の垣根を取り払って研究を進めている時代ですから、文系の中での連携はもっとあっていいと思っています。

 連携事業を続けてきて、「渋谷」に各施設が集まっていることの大きさを感じました。当館のリピーターも増えていますが、歩いて行ける範囲に複数の施設がある点も大きい。キャンパスはカフェもありますから、疲れたらお茶を飲んでもらうこともできます(笑)。

神道の歴史を「モノ」で再確認

―90年という歴史を刻んできた「博物館」ですが今後の展望を

笹生館長 当館では神道の歴史を「モノ」で再確認する作業も進めています。これまで文字資料を中心としてきた神道の歴史、日本の信仰の歴史、お祭りの歴史を、絵画や「モノ」に基づきながら復元していくことで新しい視点も見えてくるはずです。それは「モノ」資料や絵画資料を所有している博物館がやるしかないことです。定説に基づいて今まで通りの展示をするのではなく、神道や考古学の新しい研究に基づいた解釈、お祭りの用具に考古学的な資料や文献なども総合しながら研究を進めていくことも必要でしょう。最先端の研究を発信できることが大学博物館の強みであり使命だと思っています。

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 平成31年は「御代替わり」の年です。それに向けて國學院大學博物館でも大嘗祭をテーマにして特別展を開きますし、我々も「國學院がやらねば」と自負しているところです。岡田莊司先生(神道文化学部教授)の研究などを受けて、新しい大嘗祭の研究について発信していこうとも考えています。今までは折口先生の「大嘗祭の本義」が大きな柱になっていましたが、岡田先生の新解釈を検証していきたい。秋頃になると思いますが、岡田先生の講演などを含めた企画も準備しています。世界遺産の関係で私も関わっていた沖ノ島について、29年に「祭祀」に関する特別展をやりましたが、今回は大嘗祭を中心とした古代から中世の祭祀についてもテーマとしてやりたいですね。

 國學院大學博物館は、今年で90周年を迎えます。夏には記念展示も行いますし、新収蔵品の公開も考えています。考古・校史の分野も今後も精力的に研究成果を発表し、様々なテーマで企画展を開催していく予定です。

このページに対するお問い合せ先: 広報課

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