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法学界にジレンマを与える「統合的環境保護」とは?

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法学部准教授 川合敏樹

2014年7月15日更新

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「統合的環境保護」とは?

「統合的環境保護」とは、文字通り統合的に環境を保護するという意味ではありますが、環境保護に関する法整備を進める上で重要な役割を果たすだけでなく、新たな技術開発や地域コミュニティーのあり方までを左右する可能性を含んでいる概念です。すでに法原則のひとつとして捉える見方もあります。

日本には、大気汚染防止法や水質汚濁防止法などの法律があります。環境を大気・水・土壌のほか動植物やその他の構成要素に分け、それぞれを保護しています。

一方で、そもそも環境とはこれら個々の媒体や要素が混然一体となって形成されているものなのだから、もっとトータルに保護すべきだ、という考え方もあって当然です。

例えば、大気に関する排出基準は超えるが、水は一切汚染しない技術があるとします。大気環境だけを考えていたらアウトですが、水環境の保護も考えると、この技術を採用するべきなのかもしれない…。環境全体にとってプラスになる技術であれば柔軟に判断すべきではないか、環境を個々の媒体や要素に分けずに統合的に保護する法的枠組みを作るべきではないのか――これが「統合的環境保護」の考え方です。

「統合的環境保護」は欧州連合(EU)によって体系的に整理され制度化されてきました。1985年に公布された「環境影響評価指令」の中で明示され、加盟国は統合的に環境を保護する「環境アセスメント制度」を整えるよう求められたのです。

環境先進国・ドイツの事例

先ほど「指令」という用語が出てきました。「指令」というのは、EUが作る法の形式の一つです。EUが方針や枠組みだけ作り、法律の内容は加盟国それぞれに任せるというものです。

それでは、加盟国はどのような対応をしたのか。指令を受けて1990年に環境アセスメント法を施行したドイツの事例を取り上げます。

初めに結論を述べますが、環境保護の法整備に熱心なドイツでさえ―あるいは、環境保護の法整備に熱心であるがゆえに―難航しています。

当初は技術ごとに環境を構成する媒体等に対する影響値をつけ、総合点で許認可の判断をしようと考えました。「この技術は大気には+4、水には-4、土壌には-1、総合点は-1という仕組みです。しかし、理想的であってもスコアリングのための科学的知見がありません。では、行政が裁量的に判断してよいか。あるいは、そもそもドイツでは、EUの要求に応えた法整備をすでに進めているか。

さまざまな議論が交わされましたが、残念ながら「媒体や要素ごとに保護し、他の媒体や要素には影響しないようにうまく取り計らうという現実路線に落ち着いてしまいました。

なぜでしょうか。

いくつかの要因がありますが、ドイツだけではなく、環境法を整備するためには既存の法学上の理論や制度が通じないという「ジレンマが存在することも見過ごせません。

既存の法学上の理論や制度が通じない環境法の「ジレンマ」

歴史的に見れば「国家権力はなるべく市民社会に介入してくれるな」という理論が公法学(憲法学や行政法学)の基本となっています。危険が具体化してから対処する警察規則などが代表例です。

しかし、環境(生命や健康も)は1度損なわれると、その原状回復は非常に難しいため、危険が具体化する前に先手を打ち規制や管理を行う必要があります。危険が具体化していないということは、一方で原因が特定しきれていないとも言えます。果たして原因が特定できていないのに規制することは是か非か。あるいは、将来世代の為に良好な環境資源を確保しておく必要もあるかもしれない。そうすると、まだ見ぬ将来世代の為に、現在世代の環境資源利用を規制することは是か非か。是だとしても国家権力の暴走をどう止めるのか。難しい問題です。

ドイツの事例に、われわれ日本が学べることは何か。

私は、ひとつの方向性として、国や都道府県で枠組みや基準を設定しつつ、地方分権の推進の下、国や都道府県単位よりも小規模な地域コミュニティーにおける裁量的な環境資源管理を可能にする仕組み作りが必要だと考えています。

日本には入会(いりあい)という、地域住民や事業者が独自にルールを設け、環境資源を大切に管理・利用するという文化があります。ここに「統合的環境保護」の概念を取り入れることで、既存の規制ではアウトでも地域環境全体にプラスになる技術であれば採用でき、新たな企業活動のチャンスが生まれ、地域コミュニティーの発展につながる可能性も出てきます。国や行政などは枠組みや基準を作り、地域の裁量的な環境資源管理を促すことが重要になるでしょう。

目の前の自然環境の恵沢を享受し、これを守ろうとより適切に立ち向かえるのは国ではなく、その地域の自治体であり、またその地域を構成する住民や事業者などです。私は、そのような仕組みを法学的に研究し実現できればと願っています。

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