
| 昼食後、部屋のカーテンが閉められ、暗がりのなかで眠る園児たち……保育の現場では、いまも多くの場所でよくみられる光景だろうと思われる。ただ実は、厚生労働省が提示している保育所保育指針では、そのような一律の午睡(昼寝)は必ずしも推奨されていない。にもかかわらず、子どもたち一人ひとりに対応できない現場の困難も、また存在する。
子どもたちの生活習慣、特に睡眠を専門とする鈴木みゆき・人間開発学部子ども支援学科教授へのインタビュー、今回は後編だ。研究、保育者養成、官公庁での審議など、多忙を極める日々。縁の下の力持ち、いや、子どもたちの生活の下の力持ち、とでもいうべき鈴木教授の活動は、次世代の未来へと連なる。 |
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保育園での昼寝はいつから始まったのか
子どもたちの、特に夜の睡眠時間が足りていない。夜は早く床について、ぐっすりと眠り、朝にすっきりと起きてご飯を食べ、一日をはじめるべき──これは議論の大前提です。ただそのうえで、午睡、いわゆる昼寝となると、保育の現場の実情とあわせ、また別の問題が顔を出します。というのも、子どもたちの年齢が上がっていくにつれ、昼寝が必要な子どもと、無理にさせるべきではない子どもが分かれていくからなんですね。
保育の場での昼寝は、戦後間もない昭和23(1948)年に文部省が刊行した『保育要領』において重視されたのが、その後の流れにおいて決定的な契機になりました。昼食後の昼寝は、全部の幼児に必ずさせたほうがいいと書かれており、保育の現場で昼寝が絶対視されていくことになったのです。
とにかくみんな、一律で昼寝をさせるという保育現場の空気は、この頃からできあがり、現在に至っています。実際に、平成11(1999)年に通知された「保育所保育方針」の「四歳児の保育の内容」「五歳児の保育の内容」の箇所を見てみると、共に「午睡など適切な休息をとらせ」という文言があるのですが、「など」と書いてあるにもかかわらず、昼寝を必ずさせなければならないと受け取った保育者が数多く存在しました。
ただ、先ほどもお伝えしたように、2歳、3歳……と年齢が上がってくると、あまり昼寝をしなくなる子も増えていきます。昼寝が必要である/ないというのが、子ども一人ひとり異なってくるようになるんですね。たとえば、お昼寝の時間だといわれても、まったく眠くない子どもだっているわけです。

近年改訂された昼寝への見解
平成20(2008)年に告示された「保育所保育指針」およびその解説書は、こうした昼寝の実態に即したものになっています。解説書を読むと、以下のように書かれているんです。
「午睡は、子どもの年齢や発達過程、家庭での生活や保育時間などを考慮して、必要に応じて取るようにすることが大切である。子どもの家庭での就寝時刻に配慮して、午睡の時間や時間帯を工夫し、柔軟に対応します」
のべつ幕無しに昼寝させるべきだ、という時代からは明らかに大きな変化が見て取れます。さらに、平成29(2017)年に告示、平成30(2018)年に公示された現行の「保育所保育方針」の解説には、以下のようにあります。
「午睡は生活のリズムを構成する重要な要素であり、安心して眠ることのできる安全な睡眠環境を確保するとともに、在園時間が異なることや、睡眠時間は子どもの発達の状況や個人によって差があることから、一律とならないよう配慮すること」
「午睡は、体力を回復したり、脳を休ませたりするものであり、乳幼児期の発達過程や一日の活動において必要なことである。しかし、睡眠の発達には個人差があるため、3歳以上児においては、保育時間によって午睡を必要とする子どもと必要としない子どもが混在する場合もある。そのため、どちらの子どもにとっても、午睡の時間に安心して眠ったり、活動したりできるように配慮する必要がある。午睡を必要とする子どもには、落ち着いた環境の下で眠ることができる場を確保する。同様に、午睡をしない子どもにとっても、伸び伸びと遊ぶことができる充実した環境や体制を整えておくことが求められる」

一人ひとりにあった昼寝を実現するために必要な制度とは
いかがでしょうか。子どもたち一人ひとりの必要や状況によって、午睡は臨機応変にとるものであると明確に打ち出されていますよね。
しかし、私が令和4(2022)年におこなった東京都内のある区の保育所の調査によれば、大半の保育所が、子どもたち全員おおむね決まった時間に午睡をとらせていました。興味深いのは、園児によって午睡の必要性は異なると認識している保育者も数多く存在していながら、結果として一律で午睡をとらせている、ということなのです。
ここからは、午睡をめぐる子どもたちの多様性を受け止めきれない、保育所をめぐるシステム上の問題が浮かび上がってきます。というのも、子どもたち一人ひとりに対応しようとすると、「人」と「場所」が必要になってくるからなのです。
まず「人」ですが、起きている子どもたちを保育できる人員を確保する必要があります。また、寝ている子どもを邪魔しないように起きている子どもたちが活動できる場所も必要になります。これらは限られた人員とスペースで運営されている保育所で、なかなか解決が難しい問題です。
私は、保育士配置基準の見直しが必要だと考えています。現在は、0歳児なら3:1、すなわち3人の0歳児に対して保育士が1人、という基準です。1歳児は5:1,2歳児なら6:1、3歳児なら15:1、4歳児と5歳児なら25:1……。たとえば昼寝したい子が多く含まれた20人の子どもを目の前にして、寝ている子たちと起きている子たちを別々の部屋にわけつつ1人の保育士が対応する、ということは現実的に不可能であることは、一目瞭然でしょう。

子ども達に睡眠を与えるための試行錯誤
私自身、近年はこども家庭庁審議会委員等を務めるなど、保育の現場のありかたやシステムづくりに携わることが増えてきました。先ほど触れた4歳児と5歳児に対する保育士配置基準も制度発足以来75年間は30:1という基準がまったく改善されてこなかったのですが、子ども家庭庁は令和6(2024)年度から25:1となりました。
これでも道半ばではありますが、特に今回語ってきた、子どもたちの睡眠という私のテーマに引きつけていえば、保育者の方々がすこしでも対応しやすい環境に近づいているとは思います。
自分が来た道を振り返ってみると、近年だけでも、ここまで述べてきたような研究や官公庁などでの審議、そして本学での幼稚園教諭・保育士等の養成と、ひた走ってきました。そろそろ「ローバ(老婆)に休日を」……だなんて冗談めかして度々口にしているのですが(笑)、それでも活動のすべてがつながっているので、とてもやり甲斐があるのです。これからも、すこしでもお役に立てたら嬉しいですね。
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鈴木 みゆき
論文
幼保連携型認定こども園における午睡の実態に関する全国調査(第一報)(2024/06/30)
新任保育士の睡眠習慣に及ぼす幼児期・学童期の生活習慣の影響(2015/11/)
