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子どもたちに負けぬエネルギッシュさ。鈴木みゆき・人間開発学部子ども支援学科教授の明るい笑顔とバイタリティは、きっと多くの子どもたちを、そして鈴木教授の薫陶を受けた保育者たちを、励ましてきたことだろう。 そんな鈴木教授の専門は、子どもの生活習慣、なかでも睡眠だという。そして子どもたちと毎日の眠りというテーマにたどり着くまでには、意外なエピソードに満ちた歩みが存在するようだ。なにせ、もしかしたら本記事の読者のなかには、鈴木教授が作詞した歌をテレビで聞いたことがある人がいるかもしれないのだから。いったい、どういうことだろう。それでは前後編にわたる鈴木教授劇場の、はじまり、はじまり──。 |
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瀬川小児神経学クリニック院長 瀬川昌也先生との出会い
このインタビューでは私のこれまでの歩みも含めて聞いてくださるそうで、なにせ長く生きてきたものですから、半世紀にもわたるようなお話になりますが……(笑)。よろしくお願いいたします。
本学では幼稚園教諭や保育士の養成に携わっています。その保育の現場にもかかわることなのですが、私の専門領域は子どもの生活習慣でして、特に睡眠にかんして強い関心をもってきました。
その興味の大元をたどりますと1970年代後半、私が児童学科に通う子ども好きの大学生だったときのこと、そしてその頃の子どもたちをめぐる環境の話に遡ります。当時の私は子どもたちと遊ぶのが楽しいなというぐらいで、何か明確な問題意識をもっていたわけではなかったのですが、そんな学生の目をひらいてくださった授業がありました。非常勤講師としてこられた、瀬川小児神経学クリニック院長でいらした故・瀬川昌也先生による、自閉症にかんする講義です。

自閉症の現場で知った睡眠のリズムの重要性
瀬川先生は小児神経学のご専門の立場から、自閉症にかんして先駆的な見解をおもちでした。当時は自閉症について、母親の育て方が悪いからなるのだという、いまから考えればトンデモというべき定説が出回っていました。私は常日頃、幼稚園や保育所で触れ合うお子さんや保護者の方々の様子からこの見方には疑問を抱いていたのですが、瀬川先生は異なる仮説を提唱され、母親の責任ではないとおっしゃったのです。その新鮮さに胸うたれた私が授業のレポート課題に力を入れたところ、幸いにも先生の目に留まり、ご自身のクリニックに出入りさせていただきながら勉強することになりました。
これが、睡眠というテーマに最初に触れるきっかけでした。瀬川先生が自閉症の子どもたちの診察をするなかで、重要視されていたのが睡眠のリズムを整えることだったのです。たしかに自閉症のお子さんは睡眠障害を併発することが多い。きちんと眠ることが自閉症のお子さんが落ち着いて生活ができていくことにつながるというのが、先生の見解だったのです。
1980年代に入った頃、私も大学院に進み、保育者養成の道に進もうと決めつつ、同時に結婚と出産も重なりました。子どもを育て、保育園にも預け、そして研究者として働いて……という目まぐるしい生活に突入した時期です。
慌ただしい日々でしたが、面白かったのは、子どもが保育園で習ってくる手遊びや遊び歌です。一緒になって夢中でやっているうちに、私は自分でも歌をつくりはじめてしまいました(笑)。保育者養成の現場ですと、学生も子どもたちからたくさん、そして新しい遊び歌をせがまれますから、学生たちから教えてほしいと求められたことも、遊び歌づくりに拍車をかけました。

みんなのうたの作詞と、研究者の二足の草鞋
雑誌に載ったり、NHKのプロデューサーの方と知り合ったり、という偶然も重なり、1990年代前半に「みんなのうた」で、私が作詞した「そわそわカレンダー」という、妊婦さんがテーマの歌が流れました。すると新聞の投書で、かつて妊婦だった方などから、妊娠中のことを思い出すといった熱い声が届きまして、それをまた番組関係者の方が見て、新たに仕事が舞い込み……というさらなる幸運が重なりました。NHKでは、「おかあさんといっしょ」で流れたものなども含めて、トータルで15曲、作詞した歌がオンエアされたのです。
これが1990年代のこと。三児の母として子育てをしながら、研究者として保育者養成にも取り組んでいたのですが、実は保育の現場に出入りするなかで、子どもたちの様子が気になることが増えていきました。
端的にいえば、なんでこんなに機嫌が悪いのだろう、ということなんです。不機嫌な様子で登園してきた子が、他の子どもといざこざになるといったことも含めて一日ずっとトラブル続き、といった例も目にしました。観察しているうち、やはり生活習慣に問題があるのではないか、特に睡眠がきちんととれていないことが日中の状態に影響を与えているのではないかと考えるようになりました。
ここでようやく、原点に戻ったのです。これはきちんと勉強し直さなくてはと決意し、2000年に作詞活動には区切りをつけ、もう一度瀬川先生のクリニックの門戸を叩き、勉強させてくださいとお願いしました。保育者養成を続けながら改めて大学院にも通い、博士号をとり、生活習慣のなかでの睡眠ということに、きちんと向き合うようになって、現在に至ります。

子供の生活リズムを整えることの重要性
気づけば長いこと携わってきたのが「早寝早起き朝ごはん」運動です。平成18(2006)年に文部科学省国民運動として「早寝早起き朝ごはん」全国協議会が発足して以降、さまざまな普及啓発に取り組んでいます。
ヒトは昼行性の生き物であり、何より子どもたちは育ち盛りです。夜の睡眠時間をしっかり確保するために早く寝て、ぐっすり眠ったら朝に早起きし、朝ご飯をしっかり食べてエネルギーを補給し、一日に臨む──。このように子どもたちの生活リズムを整えるには、世界を見渡しても顕著に睡眠不足の国、日本の大人たちの意識の変化も必要になります。こうした課題に対して、実践と研究の両輪で向き合ってきました。
他方で、子どもたちの睡眠は重要ながら、昼寝にかんしてはまた別の難しさがあります。保育の現場では、子どもたち一人ひとりの多様性に寄り添いながら昼寝の機会を設ける必要があるのですが、現実としてはみんな一緒に昼寝をさせるという事態が広がっています。インタビュー後編では、こうした課題についてお話ししてみましょう。
後編は 「一人ひとりに寄り添う保育の場での昼寝のあり方」>>
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鈴木 みゆき
論文
幼保連携型認定こども園における午睡の実態に関する全国調査(第一報)(2024/06/30)
新任保育士の睡眠習慣に及ぼす幼児期・学童期の生活習慣の影響(2015/11/)
