令和7年度、新たに文学部長に就任した谷口雅博教授。「私学の『文学研究の砦』として、文学を学びたいという学生の要望に応えられる学部であるという自負がある」と力を込める。文学研究は「過去と現在を検証しより良い未来を描いていくもの」という。その上で、本学文学部の財産である「学統」について、「伝統を大切にしながら、それを乗り越えていくことが大切」と強調する。専門的な文学研究を継続していくために、「学部と大学院の連携強化も目指したい」と抱負を述べた。
専門的な学科の枠を超えた、学びのあり方を強化していく
國學院大學の校歌の冒頭に「古(いにしえ)へ今の 書(ふみ)明らめて 国の基を 究むるところ」という一節がある。これがまさしく本学文学部の理念を表している。本学部は、日本文学科、中国文学科、外国語文化学科、史学科、哲学科と文学を学ぶ上で充実した5学科がそろい、古代から現代に至る国内外の文学、語学、伝承学、歴史学、考古学、哲学、美学、芸術学などさまざまな分野の学問領域について体系的に学ぶことができるのが特徴だ。また、教員免許、博物館学芸員、図書館司書など資格取得のカリキュラムも充実している。最先端の研究を行っている数多くの教員がそろい質も量も豊富である。文学を学びたいという学生のいろいろな要望に応えられる学部であるという自負がある。
「文学」は何のために研究するのか。それは、より良い世界を作るために必要なものの一つであるからだ。先の校歌の一節とかかわるが、過去と現在を好意的にあるいは批判的に、しかも客観的に検証して分析し、より良い未来を描いていく。そのための学問が「文学」であると考える。
本学部は、そうした文学を学べる私学の代表的な学部であると、対外的に高い評価を得ている。学会に行った時に「文学研究の砦」と言われることも多い。特に最近は「文学部不要論」が高まり、学部の改組が進み、「文学部」という名称がどんどん消えているが、本学部は「文学部の砦」として、文学研究を志した人々を積極的に受け入れていけるような学部でありたいと考える。
そうした中で本学部が目指しているのは、異文化との比較・相対化を通じて、日本文化を世界へ創造的に発信することができる人材の育成である。異文化との比較研究は、文学研究の基本なので、比較研究をしつつ発信し、かつ海外文化を受信するという双方向で学んでいくことが必要である。
5つの学科がそれぞれに国内外の、古(いにしえ)より今に至るまでの学問に取り組んでいる。
ただ、本学部は学科ごとの個性が強く、学生は所属学科への帰属意識が高い。文学部全体として専門的な学科の枠を超えた一体感が一層高められればもっと文学部への帰属意識が生じ、発信力も高まるだろう。例えば、本学部のすべての学生が受講するような共通科目の授業がもっとあっていいし、オムニバス形式で、いろいろな分野から一つのテーマについて各講師が講義をするような授業があってもいい。学科の枠を超えた学びのあり方を強化していきたい。
さらに全学科一体化の大きな流れとして、卒業論文の提出がある。これまでは選択制の学科もあったが、令和6年度入学生から5学科すべてが必修になった。学生は、3年次から2年かけて指導教員の指導を受け、4年間の学びの集大成である卒業論文の完成を目指すことになる。
「学統」を受け継ぎ更新して、乗り越えていくことが大切
「学統」は本学部の伝統である。学統は、先人が積み重ねてきた学問の蓄積だ。そうした伝統が本学部の大きな魅力の一つである。
例えば私が学部・大学院で教わってきた先生方の多くは、折口信夫博士(1887~1953年)、武田祐吉博士(1886~1958年)、高崎正秀博士(1901~1982年)といった文学研究の歴史に名を残す研究者の教えを直接受け、その学問を受け継ぎ、展開させてきた方々であった。そうした先生方の学統を受け継いでいるなどと言うのはおこがましいが、多かれ少なかれ影響を受けているのは間違いない。意識するしないにかかわらず、当時の先生方の授業を受けていく中で先学の学問に触れることが出来るという強みがある。我々自身もそうして次の世代へと伝統をつなげ、また本学の内部にとどまらず國學院の学問を広げていくのも使命である。実際、本学で学んだ研究者が多くの大学でその学問を伝えている。
ただ、伝統があるからそれを学べば良いということではなく、学統を受け継ぎながら、批判的に検証し更新して乗り越えていくことが大切だ。先人を乗り越えるのはなかなか大変だが、教員と学生が一緒になってそれを目指していきたい。
今後の課題として、専門的な文学研究を継続していくために、次の世代の研究者を育てていくというのも重要である。そのために学部と大学院が連携しながら、研究を支えていく必要がある。一つには大学院との連携強化を目指したい。学部の4年間だけではなく大学院前期課程2年を含めた6年間、勉強したいという意志を持つ学生向けのカリキュラムがあってもいいのではないかと考える。さらに研究を深めたい人には後期課程まで進んでもらう。また、社会人と留学生の教育の充実も必要だ。すぐには無理かもしれないが、そういった方向付けも模索していきたい。
谷口 雅博
研究分野
日本上代文学(古事記・日本書紀・風土記)
論文
日本神話的通天之“柱”与中国神話-兼論《古事記》国生神話中“天比登都柱”的記載意義-(2023/06/01)
崇神紀祭祀記事の意味するもの-疫病の克服と国家の成立-(2022/04/30)