日本と音楽をこよなく愛するエマニュエルさんは、令和6(2024)年4月にベルギーから交換留学生として来日。國學院大學大学院で日本の児童音楽を研究中だ。日本と出会ったきっかけや日本に感じる魅力、留学中の計画や今後の夢など、流暢な日本語で生き生きと語ってくれた。
日本との出会いは15歳
ベルギーのルーヴェンカトリック大学で、日本語と日本について学んでいるエマニュエルさん。現在、修士1年生で、國學院大學大学院の交換留学生として来日した。遠いヨーロッパの国で、どのようにして日本に出会ったのだろうか。
「15歳の頃に、NARUTOやFAIRY TAILといった日本のアニメに夢中になったことがきっかけです。日本語の響きがやさしく、素敵な言語だなと感じ、話せるようになりたいと思いました」
エマニュエルさんにとって、音や響きはとても重要なのだそうだ。音楽の先生をしている母親の影響で4歳からヴァイオリンを習ってきたが、シャイだった彼女は、言葉にしてうまく伝えることができない思いや感情を、すべてヴァイオリンを通して表現してきた。繊細な少女だったであろうことは、大人になった彼女からも感受できる。音楽はつらい時や悲しい時に支えてくれた、大切な友達のような存在なのだそうだ。
「日本語では特に漢字が難しいですが、意味とイメージが込められていて素敵だと思います。ルーヴェン大学に入学し、ミュージックを‘音楽’と書くと知った時には、感動しました。音を楽しむ。これこそが音楽の本質だと」
ルーヴェン大学では、日本語の会話・読解・漢字・語彙・文法を習得しながら、日本の文化や歴史についても学んできた。学士論文を書くにあたり、自分らしいテーマとして選んだのが日本の音楽だ。音楽自体は長く続けてきたが、日本の音楽についてはほとんど知らず、好奇心が刺激された。幼い頃から音楽に救われてきたこともあり、特に日本の児童音楽を追求しようと考えたという。ちょうどその頃、藤澤紫先生とルーヴェン大学で出会う。藤澤先生の美しい話し方、専門分野の浮世絵への情熱に打たれ、國學院大學大学院に留学したいという思いが高まった。

大学院で日本の童謡を研究しているエマニュエルさん。手にしているのは童謡の古書で、注文してから楽しみに待っていて、取材当日にやっと届いたもの。
驚きや気づきに満ちた充実の毎日
それまで、ヨーロッパ各国へ旅行はしたが、長期の滞在は初めてのこと、しかもベルギーから遠く離れた日本。不安はなかったのだろうか。
「大好きな日本に行ける期待感の方が大きかったですね。とはいえ、授業をすべて日本語で受けることは正直いって不安でした。日常会話は話せるようになっていましたが、専門用語の多い授業となるとまた別で…。ベルギーでの授業でさえ、わからない時もあったのに」
しかし、不明点はゼミ仲間に聞いたりスマートフォンで調べたりして、なんとか対応。仲間のやさしさにも助けられ、いまでは授業がすっかり楽しくなってきた。一方、いまだに慣れずに苦労しているのが、プレゼンテーションだ。國學院大學では、事前にレジュメを作成してテキストを読みながら発表する。ルーヴェン大学では、自分の言葉で自由に発表するスタイルだったため、レジュメづくりは本当に難しいと苦笑する。これも異文化との出会いだろう。留学前に日本のことはよく調べてきたため、カルチャーショックを感じたことはないというが、人々のやさしさや電車が時間通りに運行されて便利なこと、お店での親切なサービスなど嬉しい驚きは多い。反面、コミュニケーションにおいて、相手を思いやりすぎて自分の気持ちを伝えない様子には、戸惑いも感じている。伝えてこそ、理解し合えるのではないか。ベルギー人は、思いを正直に伝えて話し合うのだそうだ。ベルギーではシャイを自認してきたエマニュエルさんだが、日本にいる自分は全然シャイではないみたいと笑う。環境によって、自身の捉え方が変化することも貴重な経験だろう。

ルーヴェン大学で4年間、日本語を学んで来日。流暢な日本語で日本の魅力について語ってくれた。毎日が充実していて、ホームシックにはなりませんと話す。
人と人をつなぐ仕事
現在は、2025年6月の修士論文提出に向けて、児童音楽の中でも童謡をメインテーマとして研究をしている。野口雨情や北原白秋について知れば知るほど、歌詞が重要だと感じるという。童謡の歴史や子どもの気持ちへの作用など、国立図書館で資料を調べたり、記念館へ足を運んだり、日本でしかできない学びに取り組んでいる。音楽大学などで童謡のゼミがあるなら、ぜひ参加してみたいとも語る。
また、ルーヴェン大学の修士課程の必修にインターンがあり、エマニュエルさんは5月にベルギー大使館で7週間、フルタイムで働く経験もした。
「毎日9時20分から17時20分まで、イベントがある日は夜も仕事をしました。業務内容としては、記者会見や会議に参加してレポートを大使に提出したり、貿易や国際関係をテーマに研究したり、翻訳や通訳、アーカイブの整理、それから電話応対もしました。電話の応対は緊張してしまい、少し苦手でした(笑)」
元々、音楽を通じて人と人がつながることを大切にしてきた彼女。大学で国際関係を学んだことで、‘人と人をつなげる仕事’である大使館員に興味を持った。もちろん日本を愛する彼女のこと、世界各国で活躍するよりも、在日ベルギー大使館員になることが夢なのだそうだ。
「着物を着てみたい!ルーヴェン大学の先生の故郷である飛騨高山を旅行したい!國學院大學のオーケストラに参加してヴァイオリンを弾きたい!」
エマニュエルさんに帰国までにやってみたいことを聞くと、ポンポンと願望が飛び出した。やりたいことが多すぎて、時間が足りないと嘆く。憧れの日本に暮らして、より深く日本のことを好きになってくれた。彼女の眼や言葉を通じて見つめ直す日本は、実に豊かで温かな印象だ。日本人であることが誇らしくもなってくる。エマニュエルさんと日々接する学生たちにも、そんな瞬間がたくさんあるにちがいない。留学でのさまざまな経験が未来につながり、いつの日かエマニュエルさんが大使館員として日本に帰って来られることを願う。

幼い頃から音楽を友達として生きてきたエマニュエルさんは、留学にも大切なヴァイオリンを携えてきた。國學院大學のオーケストラで演奏してみたいと語る。