観光まちづくり学部1期生の小村恋晴さん(観まち3)と辻響輝さん(観まち3)が、大学生観光まちづくりコンテスト2023に挑戦し、見事JTB賞を受賞した。学部としても初の快挙を成し遂げた二人に話を伺った。
テーマは福島復興ステージ
小村恋晴さんと辻響輝さんが挑戦した大学生観光まちづくりコンテストは、2011年から続く大会。毎年多くの大学生チームが参加し、指定エリアから1つ以上の市町村を選び、その地域が提示する選択コンテンツと自由コンテンツを組み合わせ、地域の課題解決や発展につながる観光まちづくりプランを競う。2023年のテーマは、【福島復興ステージ】。県内の12市町村から二人は川内村を選び、選択コンテンツである‘かわうちワイン’‘テントサウナ・川Sup’‘かわうち祭り’の中から、一番身近なワインを糸口に村と出会っていった。最初はワイン単体で考えていたが、特産のイワナ料理×ワインなど、ワインと何かを掛け合わそうと思いつく。図書館やインターネットで村の歴史や産業などを調べるうちに、かつて養蚕が盛んだったことを知る。そのとき、‘ワイン染め’が閃いた。さらに染め物について調べていくと、川内村の産品である椎茸やソバ、木炭でも染色が可能と分かり、イメージが広がっていく。そうして特産品での染色を核としたプランの方向性が決定した。
地域との交流による気づき
フィールドワークでは、村長など行政関係者はもちろん、特産品の事業者に会って村の話を伺いながら、プランの骨組みを説明し賛同を呼びかけた。その過程では、どのような苦労や気づきがあったのだろうか。
「地域の中でも、観光化に肯定的な方ばかりではなく、反対意見を持つ方や震災に基づくものならば賛成だという方もいて考えさせられました。被災地を訪問する観光のことをダークツーリズムといいますが、川内村の復興のプロセスや役割を発信したいとの思いを感じました」と語る辻さん。川内村は、震災直後は避難地域に指定されたが、1年後には他地域から避難した人たちの受け入れ先になっていたという。
「けれども、避難先で仕事を見つけるなどして村に戻らなかった住民の方もいて、調査のために道を歩いていても、人も車も見かけない…。なんとかして関係人口を増やす提案をしたいと強く思いました」と語る小村さんには、新たな気づきもあった。
「私は学芸員を目指しているのですが、聞き取り調査を重ねるうちに、学芸員に求められる‘聞き出す力’とのつながりも感じました。こちらの聞きたいことを聞くのではなく、相手の思いをどう聞き出すか。本当の思いを話してもらえることが大事だと気づきました」
地域の人たちの思いを受け止め、情報を整理し、アイデアを膨らませる日々。それをかたちにしていかなければならない。応募を決めたのが6月初旬、締切は8月中旬という過酷なスケジュールの中で、提案書と60枚ものスライドを作成した。
「二人しかいないので、隙間時間を活用してそれぞれができることをやりました。辻くんは、時間は守るし、アポイント取りやデータなど、なんでもきっちり整えてくれる。本当に頼りになりました」
「小村さんは誰に対してもフレンドリーで、村の人たちの中に飛び込んで、話しやすい雰囲気をつくってくれましたね」
お互いの個性を活かし、リスペクトし合いながらの活動だったことがうかがえる。
快挙がもたらした新たな可能性
第1次選考は書類審査のみで、応募した107チームから11チームに絞られた。通過の知らせを受けたのは9月に入ってからで、15日の発表本番まで10日ほどしかない。喜んだのも束の間、プレッシャーが押し寄せてくる。本番は10分間で説明、質疑応答5分の形式だが、スライドに合わせて原稿を作成し試行したところ、なんと8分もオーバー。提出したスライドは修正できないため、指導教員の石垣悟・観光まちづくり学部准教授と共に、原稿をブラッシュアップすると同時に役割分担も考え、必死にプレゼンの練習を重ねた。当日は緊張しすぎて記憶がほとんどないと話す二人だが、特産品を甦らせ染め物という新たなコンテンツを生み出した新規性が審査員から高い評価を受け、見事JTB賞に輝いた。大学としても前例のない挑戦だったが、苦しみながら結果を出した二人。この経験は、なにか変化をもたらしただろうか。
「学部長に褒めていただけて嬉しかったですし、先生方にも認知されて、いろいろな相談がしやすくなりました。また、学部の仲間と話題にしたり、今年チャレンジする後輩にアドバイスをしたりと、この挑戦をきっかけに交友関係が広がりました」と小村さん。
まだ新しい観光まちづくり学部にとって、二人の快挙は大きい。この経験を共有することで、これからの学びや挑戦の可能性が広がるはずだ。
「コンテストで改めて気づいたことは、その地域に暮らす人たちがなにを大事にしているか見極めることが重要だということです。その地域の人が誇りに思っているもの、軸にしているものを重点的にピックアップしていく力が少しずつついてきたと実感しています」
そう語る辻さんは、今後も学び続け、授業で出会った竹富島の環境保全の仕事をしたいと意欲的だ。
大きな学びと発見を得た二人に、まちづくりとは、と問うてみた。
「地域の人たちが、気持ちよく暮らせる生活をつくることが第一。そしてそれと同等に、人々が大切にしているものを守りながら活用していくことだと僕は考えています」と辻さん。
「同感です。他に言えることとして、地域経済を循環させるためには他地域からの人も大事だと考えます。地域の景観や資源を活かして観光スポットをつくるなどしてリピートにつなげていく。まずは若者をターゲットにするのが鍵だと思います」と小村さん。
キャンパスでの学びと、フィールドワークでの気づきを両輪として、求められるまちづくりを追求する。日本を地方から元気にしていく発想力と行動力に期待したい。