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実践と理論を併用するコンサルティング業務とは

経営コンサルタント兼研究者がもつ目線 −後編−

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経済学部 教授 手塚 貞治

2024年8月15日更新

 「キャリアを見ると、不思議な経歴に見えますよね……?」と、インタビューの冒頭に、手塚貞治・経済学部経営学科教授は口にした。30年近い年月にわたって中堅中小企業をクライアントとしたコンサルティングを行い、経営戦略やマネジメントなどにかんする一般書を手がけ、同時に研究者として論文を書き継いでいく。その歩みはたしかに単線的ではないが、だからこそ面白いのだということが、手塚教授の語りから伝わってくる。

 中小企業にフォーカスを当てたインタビュー前編を踏まえつつ、そもそもなぜそのような研究をおこなうようになったのかを振り返る後編。実社会のなかで人々をサポートし、そこからの発見や知見に学術的な検討を加え、また実社会へと還元していく、そうした立場へと至った経緯から、じっくりと話してもらった。

 

 経営コンサルタントとして働きながら大学院に通い、その後も仕事と並行しながら研究者の道を歩んできた私の経歴は、シンプルとはいいがたいですし、わかりやすいものではないかもしれません。ただ、主に中堅中小企業を中心にコンサルティングを続け、その日々のなかでの気づきも踏まえながら学術的な議論に取り組んできた日々は、理論と実践という意味において、やはりどこか密接につながってきたように私自身感じています。

 実は大学生の頃から研究者になりたい、自分の考えをまとめて発信してみたいという思いはありました。当時専攻していたのは社会学だったのですが、なかなか身辺の状況が許さず、民間企業に一般就職をしたのでした。当初は通信業界に就職して20代を過ごしていたのですが、しばらくすると、コンサルティングという仕事がなんだか面白そうだ、と気づくに至ります。1990年代半ばのことでした。

 コンサルティングという仕事のどこに魅かれたのか……振り返ってみると、やはり理論と実践の両軸がある、ということだったように思います。企業を支援していくという実践的な領域であり、同時にその支援の際に重要となる経営戦略などについて情報発信して、世に問うていくことができる、ということですね。

 結果としてコンサルタントとして向かい合っていったのが中小企業だったということに関しては、親の影響が大きかったのかもしれません。私の父親は、零細企業の創業経営者でした。とはいえ私が継ぐということはなく、父の代で畳む会社であるということは当時からわかっていたことではあったのですが、それでもいわゆるオーナー社長ですとか、ファミリービジネスといったものに対するなんともいえないシンパシーのようなものは抱いていました。コンサルティングの仕事にあたったのが、大企業よりは大半は中小企業やベンチャー企業の支援であったというのは、生まれ育った環境から知らず知らずのうちに影響を受けながら、そうした企業や人びとの役に立ちたいという思いがあったのでしょう。

 そのようにして、実践と理論が分かちがたく結びついたコンサルティング業務に汗を流しはじめ、そのすぐ後には、かねて取り組みたかった研究の道にも飛び込むべく、大学院の門戸を叩いたのでした。いまでいうところの、社会人大学院生ですね。以来、コンサルタントとして中小企業を支援しながら、経営に悩む方々に向けた一般書を書いていき、一方で研究者として論文を書く、という日々を長らく過ごしてきました。

 あくまで個人的な信条ではありますが、知識というものはユーティリティーをもつ必要がある──いってみれば役に立ってなんぼ、だと思っている人間なんです。クライアントから感謝の言葉をかけていただける瞬間というのは、その有用性を実感できる、ありがたい瞬間でもあります。

 別の方面から考えてみると、自分があれこれと取り組んできたことは、中小企業の経営者の皆さんが悩むようなことに対して、なるべく一貫したサポートができるよう、働きかけてきたのだということが言えるかもしれません。

 ひとつの企業が創設され、ある程度の規模へとスケールするまでは、とにかくガムシャラであるということは、経営ないし経営学を専門としない方であってもご理解いただけるだろうと思います。ベンチャー企業をイメージしていただけるとわかりやすいでしょう。思い描いたビジョンへ向かって、とにかくその絵をかたちにしていくことに必死です。私がこれまで書いてきた、『武器としての戦略フレームワーク』(日本実業出版社、2021年)などのいろいろな一般書は、特にこうした段階でお役立ていただけるはずです。いまもイノベーションに関する書籍を執筆中なのですが、事業をどんどんと前にドライブさせていき、またスムーズにアイデアを事業へ落とし込んでいく、そのためのノウハウをシェアしようとしてきました。

 他方で、コンサルティングの支援を必要とするクライアントの方々は、こうしたフェーズの先で悩んでいたり、その次をどうすべきか模索していたり、ということがほとんどです。たとえば、創業者の方が、自分が手がけてきた会社をIPO(新規上場)へと進めようとしている、といったケースなどがあります。そのためには、トップの手腕で引っ張ってきた経営を、より組織的なものへとシフトさせて、経営計画を練っていく必要があります。

 しかしそうしたとき、経営者、特にオーナー社長と呼ばれる方々は、往々にして孤独であることが多いのです。いろいろとお互いに議論を重ねながらプランを練っていくことができる、そんな相手が、周りになかなかいない。そうしたときにコンサルタントが、いわば対話のスパーリング相手になり、そのなかで解決の糸口を提示していくわけですね。

 研究者として論文に書いてきたのも、いわばこうした“次”のフェーズを模索する中小企業のありようについてでした。たとえばかつては、ベンチャーを中心にした企業間の提携について論じましたし、いま強く関心を抱いているのは、創業者から次の代への事業承継についてなんです。

 企業は、組織体としてはゴーイングコンサーン(継続していくという前提)でありますが、経営者という人間には、残念ながら寿命があります。創業者のカリスマ性で成立させていた企業体制をどのように次世代に引き継いでいくことができるのか、これはあらゆる企業にとっての課題です。一筋縄ではいかない課題ですが、だからこそ私の1つのライフワークとして研究を続けていければと思っています。

 企業が走り出して、やがてその先を考えるようになる。そのそれぞれのフェーズで、コンサルタントとしても、研究者としても、役に立てればと思って活動してきています。これからも、中小企業のなかで道なき道を模索する、いわばエスタブリッシュされたものではない進路を探ろうとしていらっしゃる方々と、未来を担う学生たちに向けて、オーナー企業の皆さんからいただいたものをお返しできるような、研究者としての発信を続けていければと思っています。

 

手塚 貞治

論文

婿承継の成功要因に関する一考察(2023/11/15)

「不確実性下における戦略手法に関する一考察 : シナリオプランニング有効活用の検討」(2020/12/01)

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