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いまこの時代に、日本の淵源まで学ぶ意味

2期目の針本正行学長が目指す、大学の姿 -後編ー

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学長 針本 正行

2023年4月1日更新

 令和5年度から2期目を迎えた針本正行学長。これからの大学が目指す教育について語った前編では、AIを含め、誰かの“答え”に素朴な疑問を抱くことができる、「知を問い直す」力の育成を説いた。そして知を問い直すためには、そもそも誰もが疑問を素直に発信できる力とともに、他者を尊重・理解する精神性を育むことが重要であり、その入口として、まずは学生自身が自分を深く理解することからだと話した。では、國學院大學はどのように学生が自分自身を理解する学びを提供していくのか。昨年度からスタートした中期5ヵ年計画をふまえた具体的なプランを聞いた。

 

学生が主体的に「日本文化」を学んでいくカリキュラム

 本学の“5年後”を見据えた「中期5ヵ年計画」では、「問い直す」「学び合う」「共に生きる」という教育目標を掲げました。大学とは、単に知識を伝達する場ではなく、目の前の知を問い直し、知を新たにする場です。学生と教職員は互いに学び合うことができ、垣根を超えて存在することができる場であるべきです。自分の考えと違う他者の考えに接したとき、否定をせず、なぜその考えに至ったのかを、学生だけでなく教職員も交えて熟慮する。こうして他者の意見を尊重する共生の精神が生まれていく。このような思いが3つの言葉に込められています。

 他者を尊重・理解するには、まず自分を深く理解することから始まります。本学の特色である日本文化を学ぶことには、共生社会への重要な役割があると考えています。一例として全学生が学ぶ「共通教育プログラム」の國學院科目群では、「神道と文化」「日本文化を知る」といった日本文化の理解に直結する科目が多数設けられています。まずは日本文化における基礎的な知識を身につけて欲しいと思います。

 この基礎的な知識を入口に、学生はその後の授業でより日本文化の淵源に迫っていくことができるカリキュラムを設計しています。仮に共通教育プログラムの中で「日本文化と水」の関連性について興味を持ったなら、2年次、3年次にこのテーマ・興味と密接な講義を自分で選び、段階的に学びを深めていくことが可能です。

 大切なのは、学生の主体的な学びを呼び起こすことです。大学がレールを敷くのではなく、学生自身が学ぶ中で素朴な疑問を抱き、自分で科目を選択しながらその答えを追究する。前述のように、基礎科目を履修する中で自分の興味が生まれ、それを手がかりに次のテーマを主体的に探していくことが理想です。

 

知を獲得した「道程」を学べる環境がある

 本学があわせて力を入れるのは、知が獲得されてきた現在に至るまでの「道程」に思いを致すことです。テクノロジーで簡単に答えを探せるこの時代、学生が目の前の事象に疑問を持ったとしても、すぐにテクノロジーによってその答えが提示されてしまえば、考える機会さえ生まれません。苦労なく答えが出されることに甘え、今後も同じ手段で答えを求めるという悪循環にもつながります。

 ひとつの知を獲得するまでにはさまざまな道程があります。一度出た答えが覆されることも少なくありません。絶対的な正解はないのです。その道程を学生が学ぶと、目の前の知も絶対ではないと感じ、そこから主体的に問い直す力が養われると考えています。

 本学は日本の法制史など、この国で知が獲得されてきた道程を学ぶ授業が揃い、またそれを記した資料が蓄積されています。なぜこの研究がこの時代に行われ、どういったプロセスのもとに答えが出たのか。あるいはなぜそれが更新されたのか。日本において知が獲得されてきた道程を知る環境があります。

 一方、既成の事実を新たな視点で分析することも必要です。その行為が「知を問い直す」ことにつながるからです。例として、本学の共通教育プログラムには「データ・サイエンス」の科目が含まれています。人文・社会科学系の本学がデータ・サイエンスをどう活かすのか。たとえば歴史資料にはさまざまな記録が残されていますが、その記録が本当に意味するところは何か、感覚的な意味合いではなく、科学的に記録の内情を読み解くことができる力を養えば、新たな見解を示せるようになります。実証に基づく研究を伝統としてきた本学が取り組むことは自然な流れといえます。

 私はつねづね、学生が社会に出たとき、本学を「母校」と思える大学にしたいと考えてきました。母校とは単純な出身大学という意味合いではなく、いまの自分を形成する重要な要素として本学があると感じてもらうことです。そのためには、大学で知識をただ受け止める学びを行うのではなく、目の前の知を疑い、自分から新しい知を発見する力を養いたい。中期5ヵ年計画では「知の創造。日本をみつめ、未来をひらく」という大学の将来像を掲げています。ここで話した考え方やプログラムを推し進め、私たちは不断に知の探求をつづける研究教育機関の実現を目指していきます。

 

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針本 正行

研究分野

平安時代文学の研究

論文

「『八まんの本地』の解題と翻刻」(2019/03/07)

「國學院大學図書館所蔵『俵藤太物語』の解題と翻刻」(2018/03/07)

このページに対するお問い合せ先: 広報課

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