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「尊在感」づくり」(3) ~「4つの拍手」で声かけを~

おやごころ このおもい

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國學院大學名誉教授・法人特別参事 新富 康央

2023年2月6日更新

 

近くて遠い? 遠くて近い? そんな親の気持ちや大学生の子どもの気持ちを考えます。


「支持待ち世代」の若者たち

「昔は怒鳴って育てたもの。でも今は」。駒澤大学陸上競技部の大八木弘明監督の弁です。箱根駅伝出場校の監督達も同様のことを述べています。
それは、嘗ては、若者たちが「指示待ち世代」だったからです。したがって、「圧をかける」指導に頼らざるを得ませんでした。

しかし今日、若者たちは「支持待ち世代」。自主性育成のため、良く聴き、対話する指導が大切になりました。すなわち、その子なりの存在感を認めてやる「尊在感」づくりです。

学校教育でも、「声かけ」が担任教師の学級づくりのキーワードになっています。その場合、「声かけ」のための前提となるその子を承認する評価、すなわち「拍手」のあり様が肝要となります。

以下の4つに類型することができます。

「4つの拍手」とは

・伸びの拍手

第1に、「伸びの拍手」です。結果も大切です。だが、伸びの評価もそれ以上に大切です。100メートルを11秒で走るAと12秒で走るB。しかし、Aはその前は12秒、Bは14秒。「伸び」ではBに拍手です。

・初めて拍手

第2に「初めて拍手」です。初めて◯◯ができた、という拍手です。結果中心であれば、どうしても一部のエリート層に拍手が偏りがちです。
しかし、「初めて遅れなかった」、「初めてうまく片付けた」などで拍手の範囲は広がります。

・ジャガイモ拍手

第3に「ジャガ芋拍手」。成長にとって大切なジャガ芋の芽は、へこんだ箇所にあります。その子ならではの大切な芽は、意外と隠されているのです。
名将と言われる指導者は、このジャガ芋の芽を見つけるのが上手い人とも言えます。俗に「◯◯マジック」などと呼ばれます。
「仰木マジック」のオリックス仰木彬監督(当時)は、イチローの「振り子打法」を認めないプロ球界に対して、監督を引き継いだその年、イチローを2軍から1軍に引き上げ、しかもいきなり4番打者という前例のない抜擢をしました。

・カタツムリ拍手

最後に、「カタツムリ拍手」です。マイナス面もプラスに変えてみてみよう、という評価法(拍手)です。
ナメクジは、生物学的にはカタツムリの一つ進化したものだそうです。しかし、綺麗な殻の有無に依って、カタツムリは童謡に歌われ、他方、ナメクジは塩持て追われる「損在」です。

見方一つで評価は変わるのです。例えば、暴れん坊も、見方を変えれば元気闊達。そこから、その子の「良さ」も見つかります。

「修理固成」と「人間開発」

これら「4つの拍手」の根底にあるのは、技量的には凸凹があってもそれを全面的に支持・受容する人格尊重の目です。私はそれを「見つめる目」と呼んでいます。
そしてそれは、國學院大学の設置理念の基盤となった『古事記』に記された「修理固成(つくろひかためなせ)」の教育に通じます。これは、外から「つくる」のではなく、内から「(自ら)なる」ことを意欲付ける教育です。すなわち、「人間開発」です。

新富 康央(しんとみ やすひさ)

國學院大學名誉教授/法人参与・法人特別参事
人間開発学部初代学部長
専門:教育社会学・人間発達学

学報掲載コラム「おやごころ このおもい」第15回

 

 

 

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