本学渋谷キャンパス学術メディアセンター1階にオープンした「みちのきち」。「みち」は未知、道に通じ、「きち」は既知、基地に通じる。1年間にわたってプロジェクトを進めてきたメンバーが、新施設が目指す新しい知的ライフスタイルを提案する。
発見を生むたくさんの可能性を秘めている
――――社会的に「読書離れ」「本離れ」が指摘されています。本学が実施している「学生リアル調査」では、年間の読書量が学生一人当たり7冊という結果が浮き彫りとなりました。また、1週間に1冊も読まない学生が3割超という結果も出ています。プロジェクトを進めているなかで、学生の読書に関する実態についてどのように受け止め、施策に活かしていこうと考えていましたか。
清水猛(経理課・以下、清水) 國學院大學は私立大学の中でも蔵書の量は多い方で、比較的読みたい本に触れられる機会が多い環境です。そんな環境下でも読書量が減ってしまうというのは、やはり時代の流れだと感じます。
本は、多くが論理的に構成されています。緻密に練られた文章によって情報の説明がなされ、本を読むことで自然と論理的な思考が身に付きやすくなります。私自身も社会人になってから、この論理的な考え方を求められる場面が多く、学生のうちから読書をする習慣が身についていればよかったなと感じることがあります。せっかく蔵書量の多い國學院大學にいる皆さんですから、他大学の学生よりも読書に触れる機会は多くあることで、「社会人になってから活きてくる」、そんな想いでプロジェクトに取り組んでいます。
原詩織(広報課・以下、原) 調査結果にも驚きましたが、学生にヒアリングをして、本を読まない理由を聞いてみると、「忙しくて図書館や本屋に行く時間がない」、「情報収集はネットやスマホで十分」という声が聞こえてきました。掘り下げてみると、価値判断の中に、利便性や実用性を重視されているため、すぐに答えのわかるネットが好まれ、本は遠い存在なのだなと実感しました。
大学の研究や、就職活動など、決まりきった答えのない課題に対して、インターネットのピンポイントの検索で解決することができるのか?という個人的な疑問をいつも抱いています。私も、調べものをするのにインターネットを多用してしまっていますが、学生時代の卒業論文の執筆で行き詰っているときに、その後の方向付けをしてくれたのは、何気なく手にとった1冊の本だったのを今でも覚えています。
そのため、今回の「みちのきち」プロジェクトでは、なんとなく手にとった1冊で、気が付かないアイディアや知識に出合うという経験を利用者にしてもらえるようにと思っています。
青柳美沙(入学課・以下、青柳) 私自身、学生時代あまり多くの本を読んできたわけではありません。社会人になり、日々文章の作成や校正業務を行う中で、「学生時代にもっと本を読んでいれば良かった」と文章作成力・語彙力の重要性を痛感しています。スマートフォン1つで多種多様な情報を瞬時に取得できる現代ですが、1つの本と向き合う時間やその経験が将来の自分に繋がっていくと、社会人になった今は感じます。そんな思いを表現できればよいなという個人的に思いながらプロジェクトに取り組んできました。
金子智美(人事課・以下、金子) 大学での勉強は否が応でも本を読むことが求められると思っていたので、その冊数でどのように勉強しているのだろうというのが率直な感想でした。私自身、本の面白さに気が付いたのは大学生のときです。それまでも本は好きで読んでいましたが、大学生くらいのときから、偶然そのときに抱えている悩みや迷い、考え方に沿った内容の本を手に取ることが多くなりました。本を読むことで救われたこともたくさんあります。本を読む必要性を感じていない人もいると思いますが、まずは暇つぶしとして、また情報を得るひとつの手段くらいの気持ちで手に取ってもらえるようになったら、と考えています。
吉原公英(経理課・以下、吉原) 本はネットとは反対に遅効性のメディアだと言われますよね。ブックディレクターの幅允孝さんもおっしゃっていますが、本という媒体が完成するまでには多くのコストと労力がかかっています。それだけ時間をかけて作り上げられた本には多様な価値が詰め込まれているんだと思います。内容はもちろん、重さ、文体の妙、装丁の美しさ、紙の質感、書体、インクの匂いなど、味わえる楽しみも沢山ありますし。本を読むという行為には確かな手応えがあるがゆえに、ゆっくりと思考が醸成されて、しっかり自分の体に刻み込まれていくのではないかなと思います。私も社会に出てから自分の思うとおりにならないことや、うまくいかない壁に何度も突き当たりましたが、その度に本で得た知見に救われてきたように思います。
木下健太郎(管財課・以下、木下) 本をたくさん読んでいる人と、読まない人の二極化があるんだろうなあと思います。私も学生時代は、本をあまり読んでいなかったほうです。たまたま手に取った本田直之さん(実業家)の『面倒くさがりやのあなたがうまくいく55の法則』を読んだときの衝撃は今でも覚えています。「いかなる発明であれ、その出発点は“面倒くさい!”にある」というフレーズに、「あ、面倒くさがりやって別に悪いことじゃないんだな」と気付きました(笑)。
考えてみれば電話だって直接会って話すのが面倒だから発明されたんだろうし、自動車だって歩いて移動するのが面倒だから開発されたんだろうし。面倒くさがりってある意味すごいなと。「思いがけない気付き」「考えが変わった」瞬間でした。「本を読む」という選択肢が、こうした発見を生むたくさんの可能性を秘めているということを、プロジェクトを通じて訴えかけたいと思ってきました。
村越美里(経理課・以下、村越) 読書の楽しみを知っている私としては、「読書離れ」が進んでいることは、とっても「もったいない」と感じます。たったひとつの「本」に出合うことで、急激に世界が広がったり「自分だけじゃない」と仲間を発見したりすることがあるからです。私たちPJメンバーはひとりでも多くの学生が本と出合う機会を増やして、あらたな価値を見出してほしいと願っています。
読書の型にとらわれない
――――プロジェクトメンバー的「みちのきち」活用術を教えてください
金子 みちのきちの中に入ると外があまり見えなくなり、周囲とは隔離された空間で本の世界に没頭することができます。短時間で複数の本を手に取れるので、私はいつも立ち読みをしています。じっくり読まなくても写真を眺めているだけでも癒されるし、普段自分では選ばないような本がたくさんあるので、興味の範囲が広がって書店で手に取る本の種類も増えました。
吉原 本棚の上の方に置いてある洋書や写真集も、飾りではないので、どんどん手に取ってほしいですね。私も本を棚に並べる時、「こんな本があったんだ」とページを開かずにいられませんでした。これはという本があったら、隣のカフェラウンジでコーヒーでも買って来て、ゆっくり眺める、そんな時間を大学で過ごしてもらえれば。そんななかで、いつか人生が変わるようなステキな一冊に出合ってもらえたらいいなと思います。
原 私は何度もみちのきちを訪れていますが、行くたびに不思議と毎回違った1冊が目に留まります。今日は考え事が多すぎて疲れたから、ドラえもんの言葉が身に染みる・・・季節の変わり目に、日本の季節歳時記が気になる・・・など。自分では気付かない、自分の興味関心や心の状態を知る心のバロメーターとしても活用できるかなと思っています。
清水 「みちのきち」は読書の型にとらわれない読書ができる場所だと思います。図書館とは違い、みんなでおしゃべりをしてもいい場所です。1冊の本をグループで読み、感想を言い合ってみるのもいいと思います。『肉辞典』や『鮨』などユニークな本もありますので、楽しくシェアできると思います。読んだ本の感想やデザインが気に入った本の表紙をSNSにアップするのもいいと思います。コメントなどで同じ趣向の仲間と触れ合うのも楽しいかもしれないですね。読書は一人でするもの、という概念を覆し、みんなで共有して共感し合える楽しみ方ができるのではないでしょうか。
子供の頃、絵本を読んだワクワク、ドキドキを
――――最後に、「みちのきち」をこれから利用するという学生や一般の皆さんに感じ取ってほしいこと、期待することを教えてください。
金子 子供の頃に絵本を読んでワクワク、ドキドキしたことがある方も多いのではないでしょうか。本を読む原点はそこにあると思います。本は、人と人との関係のように、一冊読むとまた次の本へとつながっていきます。同じ作者の本を読みたくなることもあるでしょうし、その作者が参考にした文献を読みたくなることもあるでしょう。また、エッセイなどでは文中に他の本の名前が出てくることもよくあり、次はそれを読んでみようという気にもなります。
本を読んでいくうちに、自分がどういうものに惹かれるのか、どういうものが苦手なのかが見えてきます。学生の皆さんには、読書をとおして自分と向き合い、新しい自分を発見し、素敵な大人になってほしいと思います。
村越 「みちのきち」を訪れたら、とりあえずぐるりと一周してみてください。きっと「んっ?」となる本が1冊くらいはあるのではないかと思います。はじめはパラパラめくるだけでもいいです。好きなものやきれいなものを見たり、読んだりしていると、人は癒されます。まずはその心地よさを味わってください。
吉原 普段、本をあまり読まない方は、どういう本が自分の琴線に触れるのか、表紙やタイトルだけではぴんとこないこともあるかもしれませんね。
今、みちのきちの一角で、先生のおススメする本を順次紹介しています。おススメしてくださった先生からの一言を添えてあるので、ぜひ見にきてください。そういうところから少しずつ、みちのきちの本を手に取ってもらえたらうれしいですね。
原 このプロジェクトの中で特に印象に残っているのは、幅さんの「本に期待してはダメ」という言葉です。何かと即効性や実利的かどうかを優先しがちですが、それが全てではないなと気付かされました。本で自分が知りたい知識だけを知ろうとすると、読み進めるにも時間がかかるかもしれないです。就職活動ですぐに使えるようなテクニックは得られないかもしれないけれど、いつか何かの役に立つ保証もないけれど、何かワクワクするような、何十年後に役に立つような、何かに出会えるかもしれません。忙しい日々の中で、そんなムダともなりうる時間を過ごすことはとても贅沢だと思います。ぜひ期待せずにみちのきちを訪れてみてください。