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女性ならではの能楽目指す

院友師弟に聞く(下)

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金春流能楽師 村岡聖美さん(平18卒・114期日文)

2021年1月22日更新

 新型コロナウイルスの影響で先行きが見通せない今の時代、能楽サークル「國學院大學金春会」での出会いを通じて師弟となった金春流能楽師・山井綱雄さん(平8卒・104期文)と村岡聖美さん(平18卒・114期日文)は、ともに伝統芸能の存続に向けて活動されています。プロが所属する能楽協会でも2割程度という女性能楽師として活躍する村岡さんは「長い能の歴史の中で女性の能はまだ始まったばかりですが、私が所属する金春流では女性能楽師を積極的に育成しています。同世代の3人で立ち上げた『み絲之會(みいとのかい)』を、コロナ禍という困難な状況ではありますが成功に導き、女性ならではの表現を目指したい」と気を吐きます。

金春流能楽師・山井綱雄さん(左)と弟子の村岡聖美さん

――能楽との出会いと自身の歩みについて

 中世文学を学ぼうと國學院大學に入学したのですが、それまで能楽に触れたことはなく、高校の教科書に載っていた世阿弥の「風姿花伝」を読んで興味を持った程度でした。実際に能楽をやっている金春会に興味を覚えて顔を出した新入生勧誘のブースで、山井先生が熱い思いを語ってくれたのが入会の決め手です。能楽に触れ、文章で見ていただけの世界を立体で表現できることに感動し、4年間の集大成として能「羽衣」で主役のシテを舞わせてもらったのですが、感動のあまり体の力が抜けていったことを今でも覚えています。

平成17年に行われた第4回綱雄会で能「羽衣」のシテを舞う村岡さん(中央)。左奥には後見の山井さん(村岡さん提供)

 金春会は平成5年に山井先生が立ち上げた能楽サークルで、これまでに私を含めて2人がプロの能楽師となりました。コロナの影響もあって学内で活動できず、私や山井先生の稽古場に出向いてもらって指導していますが、熱心な学生は公共施設を借りて自主練習もしています。不定期ですが週に1回以上は活動し、金春流宗家一門のアマチュア合同発表会「金春五星会」(1月23日、国立能楽堂研修舞台)に向けて稽古を積んでいます。

 当初はプロになるつもりなどなく呉服会社に就職しましたが、その会社がすぐに倒産したり父が他界したりと、卒業した年に多くの出来事が重なりました。そんな時に能の魅力を再認識し、「私は今、守りに入るものはない」とプロになることを決意したのです。

 プロの女性能楽師が占める割合は2割程度とまだまだですが、私の所属する金春流は先々代宗家の金春信高先生が女性の育成に力を注ぎ、山井先生の師匠である富山禮子(のりこ)先生らを中心に女性能楽師の系譜があります。私も数年前、その流れを受けて同世代の女性能楽師3人による演能会「み絲之會」を立ち上げ、女性能楽師の未来を切り開いていくために活動しているところです。

――コロナ禍での能楽について

 リモートで稽古される方が増えたと実感しています。ご自分だけではなく、家族へのリスクも考えてのことではないでしょうか。ここにきて能楽界全体がリモート稽古や動画配信に傾いてきましたが、生の舞台に飢えている人も多いことは確かです。横浜の久良岐(くらき)能舞台で蝋燭能を舞った時も「久しぶりに贅沢な空間で味わえて幸せでした」と喜んでもらいました。生の舞台を届け続けるため、まずは興味を失われないよう多彩な視点からの動画も必要でしょう。

 サークルの金春会でも「コロナが落ち着くまで活動しません」という学生はいますが、熱心に活動する学生もいます。しかし、リアルな新入生勧誘ができず1年生が1人もいないのは心配です。感染予防に留意したうえで稽古をしていますので、興味のある人は気兼ねなく覗きにきてほしいですね。

 当面は、主催公演を成功させることが目標です。今年2月に「み絲之會」の公演を予定していましたが、全国的なコロナウイルスの感染拡大を鑑み、延期しました。感染症対策を考え、日程や会場も練り直しているところです。会では3人が交代でシテ・地頭を勤めますが、今回は私がシテの順番ということもあり何とか成功させたいと思っています。また、定例公演である円満井会定例能(9月25日、矢来能楽堂)では、「富士太鼓」という能で母親役を演じます。実際に親ではない私が母親役をどう演じていくか苦心するところですが、男性の表現とは違った女性ならではの「母」を表現できたらと思います。とにかく今は、自分の力をつけることに心血を注いでいきたいと考えています。

むらおか・きよみ 昭和58年生まれ、前橋市出身。國學院大學文学部日本文学科卒、(公社)金春円満井会理事。在学中に國學院大學金春会に入会、平成17年「羽衣」で初シテ。80世金春安明、山井綱雄に師事。同じ金春流の柏崎真由子、林美佐と「み絲之會」を立ち上げ、女性能楽師による能の普及にも努める。

※撮影協力:国立能楽堂

 

 

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