ARTICLE

“ウィズコロナの渋谷”は何をすべきか
渋谷人として「いま」と「もっと先」を考える

渋谷人が語る“渋谷のチーム力”と”コロナ後のあるべき姿” Part2

  • 全ての方向け
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

シブヤ経済新聞編集長 西 樹 さん  ・  「Printworks Studio Shibuya」 長谷川 賀寿夫 さん

2020年11月20日更新

 「僕が大学生だったときは、ハチ公は新宿の方を向いていたんだよね」
 「当時は北向きでしたよね。自分が大学生になったときには、東向きでした」

 そう懐かしそうに振り返るのは、当時、青山学院大学に通っていた西樹(にし・たてき)さん。現在は、シブヤ経済新聞編集長を務める渋谷のエキスパートだ。

 もう一人は、道玄坂青年会副会長であり、「Printworks Studio Shibuya」オーナーの長谷川賀寿夫(はせがわ・かずお)さん。生まれも育ちも渋谷、SHIBUYA 109前で開催する渋谷盆踊りの企画責任者を務め、街を盛り上げる仕掛け人のひとりでもある。

 二人の年の差は一回りほど違う。開発によって、目まぐるしくかたちを変える渋谷は、街の姿を共有しづらい稀有な街だろう。しかし、移りゆく中にあって、世代が違ってもリンクするものがある。冒頭のハチ公は、最たる例だ。

 ハチ公は、駅前広場の中央に鎮座していたが、平成元(1989)年5月、広場の拡張に伴い、場所が変わる。それまでの北向きから東向き(ハチ公口方向)に修正され、飼い主を待ちわびるかのように、はれて駅の出口方向へハチの顔が向くようになった。街には歴史がある。とりわけ、渋谷は“厚い”。

 今回、渋谷のスペシャリストである二人に、渋谷とは“どんな街なのか”について語っていただいた。変わり続ける街――、その中に存在する変わらない魅力。コロナという時代感を見据えながら、渋谷はどんな街であるべきか。2回に分けてお送りする。

 

 

「広域渋谷圏」のチーム力、そして地形が作り出す渋谷の街の面白さ。前編では“渋谷の草の根”についてうかがった。今昔が複雑に入り混じる渋谷の未来は、ただでさえ予測することが難しい。そこに、新型コロナウイルスが来襲する。

長谷川さん:緊急事態宣言下は、圧倒的に人がいなくなったという印象でした。一方で、規制が段階的に緩和されてきたことで、夏にオープンした「MIYASHITA PARK(ミヤシタパーク)」、特に「渋谷横丁」は賑わいを見せていたので、コロナの中にあっても渋谷はやはりパワーのある街だなと感じました。

西さん:密になってはいけないけど、密感をどう演出するかですよね。

長谷川さん:新しい近代的な建物であっても、昭和の雰囲気を醸し出す異空間というのは、みんな好きなんでしょうね。屋外で楽しめる点も、現在の状況下を考えると大きい。ウィズコロナの中でも可能性はあるなと。


はせがわ・かずお 渋谷・神泉生まれ。立教大学卒業後、大手住宅メーカーの営業として約8年間勤務。30歳を機に退職し、父、兄をサポートするため家業である「長谷川印刷」を手伝う。営業を担当するほか、「プリントショップサン」のマネージャーとして手腕を振るう。2014年、道玄坂に、活版印刷機が使える工房「Printworks Studio Shibuya」をオープン。店長として、お店の運営に携わる。道玄坂青年会副会長。

 

西さん:明らかに昼間人口も減ったと感じます。学生やビジネスパーソンが減少すれば、利用される飲食店なども厳しくなる。渋谷は、さまざまな人が集まることで、街のパワーを作り出すエリアですから、しばらくエンジンが100%の状態に戻らないのだとしたら、違う形で渋谷がパワーを生み出す方法を考えなければいけないと思います。


にし・たてき 兵庫県尼崎市生まれ。青山学院大学経済学部卒。PR会社を経て花形商品研究所を設立。企業や商品・サービスのコミュニケーション戦略の企画・運営を多数手掛ける。2000年、広域渋谷圏のビジネス&カルチャーニュースを配信する情報サイト「シブヤ経済新聞」を開設。その後、各地域の運営パートナーと「みんなの経済新聞ネットワーク」を形成。2020年、「渋谷のラジオ」を運営するNPO法人CQ理事長に就任

 

 

渋谷だからこそ幅広い層が交錯できる

 帝国データバンク(令和2(2020)年10月29日)発表)によれば 、新型コロナウイルスの影響を受けた倒産(破産などの法的手続き/事業を停止して法的整理の準備に入った企業/負債1000万円未満・個人事業者含む)は、累計661社。47都道府県では東京都が152社と最も多く、都内最多は渋谷区の21社だ。661社を業種別で見ると、「飲食店」、「ホテル・旅館」、「アパレル小売店」がトップ3。センター街で30年にわたって店舗を構えてきた『ジーンズメイト』も、来年3月に撤退することが決まった 。閉店する店は、まだまだ増えるかもしれない。街の在り方・役割を変えてしまいかねない未曽有のただ中に、いま我々はいる。

 

長谷川さん:僕は、渋谷に来ること自体に価値があると思っています。賛否両論あるでしょうが、街に人が来るためにどんな仕掛けを打つことができるか、それを考えていきたい。きちんと対策をとる必要はありますが、ハロウィンやカウントダウンについては、僕は賛成なんですね。人が来てくれるというのはとてもありがたいこと。それを噛み締めながら何かしかけたい。

西さん:渋谷区が主催しているわけではなく、自然に人が集まりだしたのがハロウィンやカウントダウンなんですよね。

長谷川さん:そうなんですよね。それが渋谷のすごいところでもあって、勝手に集まり始めたことで新しいカルチャーが作り出された。イベントそのものを渋谷区が主催しているのであれば、「中止です」と告知すれば解決するかもしれない。ですが、勝手に来てしまうから仕切り方が問われる。密は避けなければいけませんから、「勝手に来ないでくださいね」ということをいかに伝えていくかも、考えなければいけない。

西さん:人を呼ぶ、人に興味を持ってもらうという観点から考えたとき、国内旅行の対象、都内の散策スポットの対象としての渋谷という視点はあってもいいと思うんですね。現在の渋谷は、大人が来ても楽しめる街に変貌しつつあるため、そういったニーズにも応えることができるのではないか。

 

 

長谷川さん:うまく交われるかですよね。『渋谷スクランブルスクエア』の中に入っているお店は、若い人からすると値段が高いと感じると思います。世代間のギャップは当然感じるでしょうから、お互いが楽しめるような空間をうまく作りだし、共存できるかがポイントかもしれない。

西さん:多層的な世代がいるからこそ、渋谷ならではの「交わる機会」を創出できたらいいですよね。他の街であれば、大人の街、若者の街とすみ分けされ、イメージが画一的になってしまう。ところが、渋谷はいろいろなレイヤーが重なっているため、面白い空間を作り出せるのではないか。

長谷川さん:それはあるかもしれないですね。渋谷に暮らしている大人は若い人を見慣れている。若い人と接することにアレルギーはないため、受け入れやすい土壌があると思います。

西さん:あくまで主観ですが、偉そうな顔をしている大人が少ないような気がする(笑)。世代を超えて一緒に面白がれるアクティブさがある。例えば、渋谷ヒカリエで「モンスター」をテーマにした展覧会『MONSTER Exhibition 2020-新しい怪獣展-』などを見ていると、若年層も熟年層も楽しそうに見ている。昭和の雑貨を陳列しているようなアンティークショップでも、同様の光景を目にすることができる。

 

渋谷の街にいること自体をイベントにする

 格式はときに敷居の高さを作り出す。逆に、流行はアレルギーを生み出すこともある。壮年の大人と若い世代に何かを共有させると「混ぜるな危険」になりかねない。だが、共存するための仕掛けとなれば、面白い。ウィズコロナの中で、新しい渋谷のカルチャーが開花する可能性は大いにある。

西さん:「広域渋谷圏」ほど散策に適したエリアはない。渋谷から表参道へ、渋谷から恵比寿へ、その間にいろいろな個性的なお店がひしめき合っている。そこに発見があります。コロナによって屋外の利用価値が高まっているならば、「広域渋谷圏」のストリートの活かし方も大事だと思います。あの裏道には壮年層が好むお店が集っているけど、こっちの脇道には若年層がワイワイできるお店が揃っている……そして偶発的に交わってしまう。歩かせながら楽しませる街づくりもあるのではないか。密にならないように分散させつつ、歩ける空間を演出する。日本で一番歩くのが楽しい街を目指してほしい(笑)。

長谷川さん:渋谷の街にいること自体がイベント、というのは面白いですね。人が会わないと文化って生まれないと思うんです。たしかにリモートは便利かもしれないですが、遠隔から会話のやり取りをしているだけでは生まれづらい。

西さん:業務は遂行されるんだけど、イノベーションは起きないと言われてますよね。

長谷川さん:そう思います。その場の空気感を一緒に体験していないとアイデアや思い出は育まれない。そういう場として渋谷が存在していてほしいですし、体験する場所を増やしていかなければと思います。

西さん:屋外の貸し会議室みたいなものがあってもいいと思うんですよね。そういうことをやってしまうのが渋谷の面白いところだと思うし。『SHIBUYA SKY』の屋上では、すでにヨガ教室を開催していたり、映画鑑賞会を開いていたりする。

長谷川さん:一方で集まりすぎてしまった場合、「どうするの?」というのは痛し痒しなところ。中途半端にやると集まりすぎてしまうという(苦笑)。そういった悩みも、渋谷らしいといえば渋谷らしい。

 

100年先の視座を持って何ができるか

 コロナの影響により、都市部の街は大きく変わることが予想される。リモートやオンラインが一般化しつつあることで、都市部の昼間人口は減り、オフィスの撤退も相次いでいる。だが、これまで想像の範疇を超える変身を繰り返してきた渋谷だからこそ、「逆境を逆手に取ってほしい」と異口同音に話す。そして、見据えるは“もっと先の渋谷”の姿だ。

 

西さん:2020年は、明治神宮にとって鎮座百年という記念すべき年でした。いま我々はコロナによってどうするべきか――、といったことが叫ばれていますが、一方で100年後に対して、いま我々は何ができるかという大きな視点もあっていいと思うんです。

 

 明治神宮の森は、元々荒地だったような場所に先人たちが英知を結集し、150年先のことを見据えて計画した人口の森だ。永遠に持続する森を作るべく、科学的合理性にもとづくシミュレーションを重ね、植栽直後、50年後、100年後、150年後の4段階で森を成長させるように設計されている。

 

西さん : 渋谷駅周辺再開発で最近できたビルも、コンクリートの耐用年数を考えると100年後には残っていない可能性もある。しかし明治神宮は、100年後も続いて、人が途絶えることがありません。過去の100年を知った上で、次の100年を考える――、100年後を視座にしたアクションを考えていきたい。そういったことをみんなで考えられる渋谷であってほしいなと思います。

長谷川さん: そういったことを話し合い、アイデアを形にしていくためにも、人と「会う」ことは欠かせないこと。コロナだからと過剰に自制すると、結果的に大きな未来に影響が出てしまう。

西さん:人口が減っているということは、渋谷に関わりを持つ人が減っていることを意味します。渋谷と関係性を持つ“渋谷人”としての意識のようなものが希薄になってしまうと、当然、渋谷から良いものは生まれづらくなる。自分事として渋谷を考える機会の消失を止めるためにも、「いま」と「もっと先」、双方を考えることができる機会を作ることが大事だと思います。人の好奇心を満たすための渋谷。渋谷はもちろん、オール渋谷区で取り組んでいきたいですね。

 

 

取材・文:我妻弘崇 撮影:久保田光一 編集:小坂朗(原生林) 企画制作:國學院大學

 

 

このページに対するお問い合せ先: 広報課

MENU