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日本各地で縁起物として扱われた凧

~スポーツ、その日本のルーツを探る~

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文学部 教授 小川直之

2015年12月26日更新

 日本においては、2019年ラグビーワールドカップ、2020年は東京オリンピック・パラリンピックと、スポーツのビッグイベントが続きます。さまざまな競技がある中、日本におけるその競技の伝統や起源を探っていくことで、グローバルなスポーツの中の「日本」を紹介いたします。(※画面の右上のLanguageでEnglishを選択すると、英文がご覧いただけます This article has an English version page.) 

~「凧あげ」~

◆正月以外でもあげられていた凧

JN(凧あげ)①

 

 骨組みに紙・布を張った凧と呼ばれる玩具を風の力で、空に浮かばせる遊びです。凧あげは日本だけでなく世界的に行われている遊びです。現在では、スポーツカイトとして競技にもなっていて、国際大会も行われているスポーツの一つです。

日本での「凧」の記録は、平安期の辞書「和名抄」に「紙老鴟(しろうし)」あるいは「紙鳶(しえん)」とあり、そのころまでに中国から伝来していたと思われます。

 現代ではお正月の風物詩としておなじみですが、江戸時代では庶民の間で大流行し、正月以外にも凧があげられていたようです。

 凧あげの季節は地方によってさまざまで、2月初午の日に大阪では大人も一緒になって酒を飲みながら凧をあげて遊んだと記録もあります。長崎では、3月から4月、愛知県豊橋あたりでは、武家の子供は3月末から5月6日まで凧をあげたとされています。やはり江戸時代の秋田県男鹿ではお盆に凧あげをしたとされています。このように季節は地方によってさまざまだったのが明治以降、次第にお正月に集中するようになったようです。

 

◆凧は日本各地で縁起物として扱われた

JN(凧あげ)②

神奈川県相模原市の大凧

 江戸時代の凧あげの季節はさまざまですが、正月、2月初午、4月8日の花祭り、5月5日の端午、お盆というように、季節の変わり目にお祝いをする節日(せちび)に強く結び付いていることが伺えます。

 端午節供(たんごのせっく)での凧あげは「初凧」などと呼ばれ、男児の初節供を祝って大凧を作り、大空に勇壮に上がる姿と、その子の成長を重ねています。神奈川県の相模原市などの大凧あげは有名です。長男が生まれて初節句を迎えると、その家が地区の若者たちに頼み、子どもの名前を書いた大凧をあげてもらう風習に由来し、元々は4、5メートルほどの大きい凧を、子どもの初節句をお祝い、立身出世の願掛けとしての意味があります。

同様な節供凧の風習は静岡県、愛媛県などでも確認でき、各地で盛んであたったようです。

「鶴」「亀」で2枚1組の祝凧(いわいだこ)というものもあります。凧が「あがる」ことになぞらえて、各地で縁起物として扱われていたことがうかがえます。

この他、三河湾に位置する佐久島では、正月八日に厄年の男性二人が、「鬼」と書かれた八角凧を射落とし無病息災を祈るという「八日講祭(ようかこうまつり)」という神事が行われます。また王子稲荷神社では2月の午の日に「凧市」が開催されます。これは風が大火につながることから、風を切って上る凧を火事除けのお守りにと、同神社の奴凧を「火防の凧(ひぶせのたこ)」として買い求めたことがはじまりと言われています。2月初午に火伏せを願う行事は東北地方にもあります。

 

◆日本各地の凧の名称、かつては「イカ」だった?オリジナルの漢字が生まれるほどに愛された凧

 JN(凧あげ)③

 凧の名称は、正徳2年(1721)の「和漢三才図絵」(わかんさんさいずえ)では、江戸時代初期、「イカノボリ」と言われ、今は「烏賊」(いか)と呼び、関東では「章魚」(たこ)と説明しています。

 近年でも、青森県下北地方は「タコバタ」、東北地方東部では「ハタ」「テンバタ」、新潟県から北陸・近畿・中国東部・四国瀬戸内沿岸では「イカ」「イカノボリ」、中国地方西部では「ヨーズ」、九州北部では「タコバタ」「タカバタ」「ハタ」「タツ」など、長崎県北部・平戸・五島列島や壱岐では「ヨーチュ」「ヨーチョ」、さらに沖縄県の宮古島では「カビトゥズ」、八重山諸島では「ビキタマ」と呼び、これら以外の地方では「タコ」と言われています。

日本全国で親しまれている凧。実は「凧」という字は日本オリジナルの漢字(国字)です。風をはらむ布を意味していると言われています。これほどまでに愛された凧には豊かで興味深い歴史があったのです。

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