体づくりの基本は食事から。それはわかっているけれど、ついつい偏った食事をしてしまうというのは、誰もが身に覚えのあることだろう。食事にかんして高い意識をもつスポーツ選手であっても、食事というのはなかなかに難しい。
そこに寄り添い、サポートしているのが、小林唯・人間開発学部健康体育学科准教授だ。本学就任前はバスケットボール男子ナショナルチーム、現在は国内のプロバスケットボールリーグ・Bリーグのチームであるアルバルク東京や、本学内の運動部の選手たちの栄養サポートに携わっている。インタビュー前後編にわたって圧倒されたのは、アスリートの体づくりをサポートする、小林准教授自身の放つエネルギーだ。
スポーツ栄養学の実践と研究を両輪としながら、ドタバタとした日常を送っています。たとえばいま手元にスマートフォンがありますが、サポートしているスポーツ選手が食事を摂る度にその食事を撮影した画像がLINEで送られてきて、アドバイスをするということを繰り返しています。24時間対応というと語弊があるかもしれませんが(笑)、いつだって誰かが食事をするなかで並走するということは、こうしたリアルタイムでのフィードバックをしていくということを意味するんですね。
たとえば現在、Bリーグ・アルバルク東京の栄養アドバイザーを務め、トップチームを中心にしつつ、ユース年代の選手たちまでサポートしています。特にトップチームにかんしては、日常の食事から遠征先での食事までできるだけ細やかに調整できる体制を築いたり、選手へもレクチャーの機会を設けたり、あるいは希望する選手には個別のサポートをしたりしています。
他方で本学の運動部、たとえば野球部や柔道部の選手たち、特にプロを含めたトップレベルを目指す希望者たちのサポートもおこなっています。仮にいま、昼食を摂った選手がLINEでその画像を送ってきたとしたら、そこから足りない栄養素を判断し、どんな食べ物をプラスして摂るべきかなどをアドバイスする、といった具合です。
いずれの場合も、実は私ひとりの仕事ではありません。プロチームであれば、ストレングスコーチやトレーナーといった方々と連携をとりながらサポートをしていきます。たとえば摂取・消費エネルギーを調整すると一言でいっても、食事の量で調整することもできれば、運動量の増減によって調整することも可能です。選手がいま何を目指して、普段どんなトレーニングをしているかによって、スポーツ栄養学の見地からのアドバイスも変わってくる。だからこそ、協働的なサポートが大事になってくるんですね。
こうした総合的な観点からのサポートというのは、学内の選手にかんしても同様です。できる限り選手から直接、いつもどんなトレーニングをおこなっているのかヒアリングして、そのうえで栄養学の観点からアドバイスをしていきます。また一部の選手については、同じ学科に所属し、スポーツ心理学を専門とする伊藤英之先生と連携しながら、心理学と栄養学の両方の面からサポートする体制をとっています。
いずれにしてもスポーツ栄養学は、私個人の範囲で終わる営みではない、と日々実感します。他の専門家の方と連携したり、何よりアスリート本人と綿密なコミュニケーションをとったり。そうしたやりとりこそが、スポーツ栄養学という取り組みの、ひとつの魅力なのかもしれないとも思いますね。
実は、私自身がこのスポーツ栄養学という分野に出会ったのは、本当に偶然のことでした。かつて私はクラシック・バレエに取り組んでいたんです。将来的にもその道に進むつもりだったので、高校は音楽大学の附属高校に進学しましたが一年次の初期の授業で、脚を大怪我してしまいました。バレリーナには必須であるトゥシューズすら履けなくなってしまい、この学校に入学した意味がないのではないかと、しばらく呆然としていたのです。
そんな折、ドイツ語の通訳を務めていた親戚の誘いでドイツに旅行し、その親戚の仕事の関連で、サッカーのコーチライセンス取得のための講習を見学する、という機会を得ました。その講習のなかに、スポーツ栄養学の講義があったんですね。
私はとても驚き、そして一気に魅了されていきました。当時の日本は、スポーツ栄養学という分野はまだ本格的に発展する前の段階で、そんな言葉を身近に見聞きすることもない状況でした。もちろん、平成19(2007)年に養成制度がスタートした、公認スポーツ栄養士という資格も存在していませんでした。だからこそ、新鮮に感じたんです。
そして何より、私個人にとって、大きな意味をもつ営みであるように感じられました。自身が表に立って活動することがなくとも誰かをサポートすることができるんだ、ということに、強烈に魅せられたんです。
帰国してすぐ、叔父の知り合いの方からトレーナーのための勉強会を紹介していただきました。その勉強会は、スポーツドクターとアスレチックトレーナー(AT)の方が開いており、ATを志す学生トレーナーや専門学校に通う学生が、たくさん勉強にきていました。すると、まずは管理栄養士の資格が必要なので、管理栄養士の養成校に入るべきだ、とアドバイスをいただきました。実際にそうした大学に通いながら、一年生のときからトレーナーの勉強会にも参加し、やがて学部生のうちから実際のスポーツチームでの栄養指導にも参加していくようになりました。
スポーツ栄養学という道自体が、整備されていない時代のこと。勉強会で指導してくださったトレーナーは、専門分野は異なりますが、師匠のような存在です。今後この世界に入ってくるなら、専門的な研究と実践を両立しなければダメだ、ともアドバイスをくれました。ですから私は大学卒業と共に管理栄養士の資格、そしてNSCA-CPTというパーソナルトレーナーの資格をとり、大学院では睡眠を研究テーマにしました。アスリートの体づくりをサポートするうえで、栄養、トレーニング、睡眠という三要素をきちんと専門的に、何より自信をもってアドバイスできる状態にしておきたかったからなんです。
こうしたスポーツ栄養学の知見は、実はこの記事をお読みの皆さんの日常にも、深く関係しているかもしれません。インタビューの後編では、近年流行しているある食事の仕方について考えることからはじめてみたいとおもいます。それは、“鶏むね肉”に偏った食事。私は正直、かなり危惧しているところがあるんです。
小林 唯
研究分野
栄養学、スポーツ栄養学
論文
Influence of AMY1 gene copy number on salivary amylase activity changes induced by exercise in young adults(2024/10/25)
「ホルター心電計を用いた活動代謝量および睡眠の自動算出に関する研究」(2004/03/01)