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隋唐王朝から考える国のカタチ

中国史に学ぶ中央集権国家の成立と崩壊(前編)

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文学部 准教授 江川 式部

2021年9月30日更新

 中国(中華人民共和国)は、今や世界の政治経済に対し、大きな影響力を持つ超大国となった。一方で、かつて律令体制によって中央集権国家を確立した隋(581-618)唐(618 -907)王朝政権時代の秩序支配の根底には、天命思想に基づく礼的な世界観があった。中国中世史、中国礼制史が専門の文学部史学科・江川式部准教授に中国の国のカタチについて聞いた。

【後編】長期政権の体制崩壊から何を学ぶか

―― 天命思想や礼教国家とはどのようなものなのか。

 天命思想の「天命」とは、文字通り「天の命令」という意味である。中国では古来、天の神(天帝)が認めた人物である天子に対し、天下を支配するよう命令を下すと考えられていた。漢の時代に武帝が統治理念として儒学を採用し、儒学者の董仲舒の建言によって、儒学が官学となった。董仲舒が唱えた災異説とは、「天子の失政に対し、天帝が災異を起こして譴告(けんこく)を与える」という考え方である。皇帝支配の正当性を政治理論化したものだが、その一方で、皇帝にも自己規制と徳治の励行を求めた。歴代王朝では、基本的に儒教を政治理論の根本に据え続け、歴代政権は支配の正当性を天下の安寧という形で主張した。

 礼とは、中国古来の生活規範の総称である。礼を最も大切な道徳と位置付ける儒教が朝廷の政治理念に採用されたことで、天命思想と結びついた。『周礼』『儀礼』『礼記』は、儒教における礼のテキストである。隋では、南朝および北朝の儀礼書を整理した『五礼』が編纂され、唐代には、それ以前の王朝儀礼を集大成した『大唐開元礼(だいとうかいげんれい)』などが、国家礼典として編纂された。礼典に沿って、律(刑法)・令(行政法)・格(臨時法)・式(施行細則)の各種法制が整備され、礼と法の運用を基礎に、中央地方の行政制度や官僚制度、均田法[i]などの土地制度、租調庸の税役制度、府兵制と呼ばれる兵制が施行された。

『礼記』曲禮上篇(部分) – 国立国会図書館デジタルコレクションより。 『礼記』は周~秦・漢の礼に関する言説を集めた儒教のテキスト

―― 天命思想が隋唐の国家統一に果たした役割は。

 中国の歴史は、分裂と統合の流れが繰り返されてきた。その中で、隋唐時代は魏晋南北朝の分裂期を経た後の、統一の時期にあたる。楊堅(高祖文帝)は、隋の建国直後から国内のインフラ整備に取り掛かり、長江などの東西に流れる自然河川を、南北につなぐための運河を建設し、国内の物流網を整えた。陳を滅ぼした後、統一王朝としての人材登用策を打ち出し、新たな官吏任用制度として科挙[ii]を創始した。隋は2代目の煬帝の失政により短命に終わったが、その後を受けて建国された唐は、隋でつくられたこれら中央集権を維持するためのシステムを継承し、300年近く政権を維持した。隋から受け継いだシステムが基本的な部分で有効に機能したためだと考えられる。唐の第3代皇帝・高宗は、泰山で封禅(ほうぜん)という祭祀を行っている。秦の始皇帝や漢の武帝も行ったことで有名な祭祀であり、外国の使者たちの前で、天子として天下を安寧に治めていることを天帝に報告し、支配の正当性を国内外にアピールした。

―― 中国の中央集権を可能にしているのは何か。

 中国では、歴代王朝から現代の中華人民共和国にいたるまで、中央集権を強化する方向での国造りを試行し続けてきた。広大な国土があり、生活や風土、文化の異なる人々をまとめることができた背景のひとつには、「漢字」があるのではないか。それぞれ発音や言語が異なる場合であっても、共通の文字としての漢字を使って、繋がりを持つことができる。地方が何を言っているのか、またその事情を、中央は漢文によって知ることができたのである。紀元前1000年頃から現代まで、約3000年にわたる数多の史料を、漢字を介して読み続けられる国は、中国を除いて他にはない。歴史の蓄積と通信手段としての漢字の力が、中華的世界観の奥深さを形作ったと言える。


[i] 国家による土地の給付と返還を原則とした土地制度。北魏の時代にはじまり、唐中期まで行われた。戸籍にもとづいて国が土地を支給し、租税を徴収する。唐では原則として成年男子に土地が配分され、農民は収穫された穀物(租)、家内制手工業で生産された絹布・絹綿または麻布・麻(調)を税として納め、さらに力役(庸)を供出した。

[ii] 隋代に始まり清末まで行われた官吏任用試験。

参考文献『教養の中国史』(ミネルヴァ書房、2018年)

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