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“今”を描くミステリー作家・結城真一郎がピクっとくる次のテーマはどこにある

(つながるコトバ VOL.7_後編)

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ミステリー作家 結城 真一郎 さん

2023年1月23日更新

 発売3か月で12万部という大ヒット作『#真相をお話しします』を世に送り出したミステリー作家・結城真一郎さん。前編では、結城さんの小説スタイルや、普段本を手に取らない人に取ってもらうために行った工夫についてお話をうかがった。後編では、小説を書く手法や、今、世の中で起きている事象をどう捉えているかを、一問一答を通してうかがった。

 

緻密なパズルのような設計図が頭にある

 結城さんの小説、とくに最新作の『#真相をお話しします』の読者が驚くのは、どんでん返しに次ぐどんでん返しの驚きと、「あそこで語られていたアレが最後のコレに結びつくのか」という伏線の張り巡らし方と、その回収の仕方だろう。

 こうした作業は集中と時間が必要と想像するが、結城さんはかなり限られた時間の中で小説を書いている。なぜなら、日中は会社員として働いているからだ。執筆に割く時間は就業後と休日のみ。しかも昨年には結婚もしたそうなので、ますますオフタイムは短くなっているはずだ。

 長編など、書いている時間がとぎれとぎれだと「どの時点で伏線を張ってどこで回収するか」など当初の構想からずれたり、忘れたりしないのだろうか。

 「それは……ないですね。なぜなら、書き出す時点で頭の中にかなり緻密な設計図が完成しているので。その設計図は細かいピースをびっちりとはめているような感じなんで、どこかのピースをはめ忘れたら、読み返したときすぐに分かります」

作家さんによっては100枚以上のプロットを書く人もいるそうだが、結城さんはプロットなし!

 結城さんはプロット(物語の筋書き)を書かない作家としても知られている。担当の編集者には「次回作はリモート飲み会をテーマにします」とか「精子提供で書こうと思います」という話はするが、プロットを提出したことは一度のみ。それも1〜2枚程度のざっくりしたもので、基本的にはすべて、脳内設計図によって執筆する。

 「もちろん、書きながら粘土みたいに作品をこねくり回しているうちに『待てよ、こっちのほうがいいんじゃないか』と登場人物の動きを変えたりすることはありますけど、大幅に予定を変更して設計図と別物になることはないですね」

 ちなみに、「仕事の時間も確保していますが、妻との時間もちゃんと取っていますし、YouTubeも見ています(結城さんは大のYouTube好きで知られる)」とのこと。

 

ミステリー界の新星が、次に書きたいテーマは?

 大胆かつ緻密、そんな印象を受ける結城さんが、次に書きたいテーマはなんだろうか。ここでは一捻りして、このテーマなら結城さんは触手を動かすかどうか? というキーワードをいくつか問いかけ、答えてもらうという形でうかがってみた。

 

問1 新型コロナ および パンデミック

 「パンデミックには興味はあります。このことによって、一気に日常が変わってしまったというところになにか物語が生まれそうな気がします。気になっているのは、ワクチン容認派と反ワクチン派について。デマを飛ばす人とそれに反発する人、陰謀論的な主張をする人とエビデンスに基づいて主張する人、そしてそれを傍観している人がいる。それがネット上で繰り広げられているところもまた、現代的だなと思っています。まあこれは必ずしも新型コロナと絡める必要はないかなとも思いますけど」

 

問2 メタバース、3Dアバター

 「2作目の『プロジェクト・インソムニア』で、共通の仮想プラットフォームで人々が仮想生活を送る……という内容を書いています。今、興味があるのは、この仮想の世界が市民権を得たらどうなるんだろうという点ですね。とくに、メタバースの中でアバターとなっている人を殺す事件が起きたら、どういう法適用になるんだろうっていうことですね。ここになにかドラマが起きそうな気がします」

 

問3 レンタルなんもしない人

 「めちゃくちゃ好きです! 『レンタル○○』について、なにか書いてみたいとすごく考えています。レンタル彼氏とか、『レンタル○○』はいっぱいあるから、じゃあなんだったらおもしろくできるかな? と考えていますけど、『レンタルなんもしない人』っていうのが相当おもしろすぎるので、それを超えられるかな? これまで出たキーワードの中では、いちばんなにかできるのではと考えた“場所”です」

 

問4 国際ロマンス詐欺

 「ああ! めちゃくちゃ好き! ちょっと前にあったじゃないですか。Tinder(世界的なマッチングアプリ)を使って、ダイヤモンド会社の御曹司になりすまして女性たちを騙してカードを使わせて……って事件がありましたよね。これはなにかネタにできないかと、Netflix見てました(注:この事件はNetflixで『Tinder詐欺師:恋愛は大金を生む』としてドキュメンタリー化された)」

 なるほどである。こうしてお話をうかがっていると、結城さんは最新のガジェットや事象そのものに心惹かれているというより、それを使うことによって起きる人の心の歪み、歪んだ人間関係から生まれるドラマが好きなのではないだろうか。ほかに「NFTアート(所有証明書を発行できるデジタルアート。デジタルアートの複製を防ぐ仕組み)」についても感想をうかがったのだが、「いやあ、くわしくないですね」という答えで、そこにはやはりNFTアートはただデジタルを使った“仕組み”だから食指が動かないのかもしれない。

 インタビューでは「今までに挫折したことがありますか?」という質問もした。その答えは、

 「……万人が挫折と認めてくれるような挫折はないですねぇ。しかし、人生を変えるほどの挫折って、皆が皆、経験あるんでしょうか? 就職活動してたときにもよく面接で『人生最大の挫折ってなんですか』という質問をされましたけど、そこで語られていることって本当の挫折なんでしょうか? “理想の挫折”みたいなものがあるってみんな思い込んでるけど、語れる挫折って真の意味の挫折なんですかね? 世の人々がおしなべて思う挫折って何なんだろう。そもそも挫折って全員がしていなきゃいけないことですかって疑問もあるし。このあたりもなにか、永遠の問かな。作品にしたいなっていう気がしますね」

 というものだった。みんなが「ありそう」と思っているものは本当なのか。なぜ、面接で理想の挫折を人に語るのか。そもそも真の挫折とは存在するのか。そこには何か、表面から見えないドロドロした人の気持ちがうごめいていそうである。

 

社会とつながっていたいから、まだ会社員でいるつもり

 今回の大ヒットによって、仕事の依頼も殺到し、3〜4年後までスケジュールがいっぱいという結城さん。ここで兼業を辞めて作家専業になる予定はないのだろうか。

 「作家として、社会と接点を持っておくことが大事だと思っているんです。どんな経験も小説を書く上では血となり肉となるので、逆に言うと会社をやめたとしても一時的にアルバイトするとか、なんかしら社会とつながっていたいですね。世間からまったく認知されてない仕事をしたら、それはそれでネタになるし、嫌な上司に無茶振りされたり、クレーマーのお客さんに振り回されたりとか、嫌なことがあっても『いつかこれを作品に使ってこの気持ちを成仏させてやる』って思えますしね。これ以上仕事が立て込んできたらどうなるかは分かりませんが……」

 ある意味、生きて活動していること自体が取材でもある。次に結城さんが繰り出す世界はなんだろうか。結城さんが見て、感じた世界を小説を通して共有したい読者は、次はどんなふうに読者の読みを裏切る作品を書いてくれるのか、待ち焦がれながら期待しているのである。

 

 

結城真一郎(ゆうき・しんいちろう)

1991年神奈川県生まれ。東京大学法学部卒業。2018年『名もなき星の哀歌』で第5回新潮ミステリー大賞を受賞、同作で2019年デビュー。2作目『プロジェクト・インソムニア』を経て、2021年に『#拡散希望』で日本推理作家協会賞短編部門受賞、同年3作目の長編『救国ゲーム』を上梓し本格ミステリ大賞候補作となる。2022年6月に出版された『#拡散希望』を収めた短編集『#真相をお話しします』が発売数か月で13万部の大ヒットとなる。まさにミステリー界の新星。

結城真一郎 Twitterアカウント @ShinichiroYuki

 

 

取材・文:有川美紀子 撮影:庄司直人 編集:篠宮奈々子(DECO) 企画制作:國學院大學

 

 

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このページに対するお問い合せ先: 広報課

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