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國學院大學
伝統文化リサーチセンター

波自加彌神社はじかみ大祭調査

2010年7月8日更新



1.調査目的
 「神社祭礼に見るモノと心」グループでは、日本全国の神社の祭礼にどのような神饌が供えられているかを解明することを研究テーマのひとつにしている。この課題を解決すべく、本グループでは、平成20年度に「神饌とお祭りの記録に関するアンケート」と題し、全国の神社を対象に特殊神饌に関するアンケート調査を実施した。その結果、波自加彌神社(石川県金沢市鎮座。写真1)は例祭時に香辛料を供える数少ない神社のひとつであり、近年、その祭礼が盛大化していることが明らかになった。
 以上を受けて、本グループでは非常に特徴ある神饌を供える波自加彌神社の「はじかみ大祭」の調査を行い、神饌の内容・入手方法などを把握するとともに、その儀礼構造の把握などを試みた。なお、本グループでは、本調査の成果を報告冊子『神々を彩るモノシリーズ2 神饌』(無料)としてまとめ、7月に刊行した。

写真1 波自加彌神社


2. 調査期間
 平成21年6月14日~16日(2泊3日)
 
3. 調査地
 石川県金沢市
 
4. 参加者
 筒井 裕 (ポスドク研究員)
 鈴木 聡子 (リサーチアシスタント)
 伊東 裕介 (リサーチアシスタント)
 
5. 概要
(1)波自加彌神社の祭礼調査(調査日 6月15日)
 石川県金沢市鎮座の波自加彌神社は、例祭「はじかみ大祭」に香辛料を神饌として供える数少ない神社のひとつである(ほかには兵庫県豊岡市の「椒神社」などがある)。この祭礼は明治期に一時途絶したが、平成8年に再興された。以降、「はじかみ大祭」の期間中、境内で漬物コンテストを開催したり、地域の児童を対象とした教化活動を行ったりするなどして盛大化の様相をみせている。以下に、6月15日に本グループが行った「はじかみ大祭」の調査から得られた知見を記す。
・はじかみ大祭の由来
 奈良時代に、加賀国では大干ばつが発生し、多数の人々が亡くなった。このとき国造が雨乞いのために波自加彌神社に参拝し、37日間の祈願を行った。すると6月15日に霊水が湧き出し、人々は一命を取り留めることができた。これを祝して祭典を執行しようとしたところ、干ばつにより神饌とすべき食物が、乾燥に強いはじかみ(生姜)しか残されていなかった。これにちなみ、同社では、はじかみを神饌として供えるようになったとされる。現在、「はじかみ大祭」では、香辛料を扱う企業による商売繁盛の祈願が多くなされている。
 
・儀礼構造の調査
 これまで、波自加彌神社の「はじかみ大祭」の調査は神饌のみに焦点が当てられる傾向にあり、その儀礼構造はほとんど明らかにされてこなかった。そこで、本調査では、祭典の構造の把握も試みることとした。以下に、その式次第を記す。
  神楽太鼓
  修祓
  宮司一拝
  御扉開扉
  祝詞奏上
  <生姜神事>
  振幣の儀 加賀・能登・越中の三国を払うための儀式である。宮司が、御幣(逆さ御幣)を肩にあてて一拝する。これを左・右・左と3回繰り返す(写真2)。
  散湯の儀 宮司が、すりおろした生姜を本殿前の大釜の中に入れる。大祓詞を唱えながら、笹で生姜湯を周辺に撒き散らす。
  宮司玉串・参列者玉串・神楽太鼓・宮司一拝・宮司挨拶
  直会の儀 宮司以下、斎員が本殿前の釜の前で生姜湯をカワラケで3回飲み、器を割る。
  参列者直会 巫女が参列者に生姜湯をふるまう。
 この儀礼構造から、「はじかみ大祭」は加賀・能登・越中の旧3国の穢れを祓うことを主眼とした祭礼であることが理解されよう。

写真2 振幣の儀


・崇敬者の分布
 波自加彌神社は、金沢市二日市町・花園八幡町の2町内会(合計約200世帯)を氏子地区とするが、同社の信仰圏(崇敬者の分布範囲)は非常に広い。拝殿内部に貼られた祭礼奉賛者一覧を分析したところ、同社が鎮座する石川県以外に、千葉県・東京都・富山県・岐阜県・愛知県・大阪府・高知県から香辛料を中心とした食品が奉納されていたことが判明した(写真3)。一般的に、神社の信仰圏は鎮座地周辺に塊状に形成される傾向にある。したがって、首都圏・岐阜県・高知県といった香辛料の産地や食品関連企業の所在地を中心とした都市部に「飛び地的」に形成されている波自加彌神社の信仰圏は、非常に特異なパターンを呈していると言える。

写真3 奉納された食品の一部


・神饌の内容と入手先
 波自加彌神社では「はじかみ大祭」の折に、多種類の香辛料を「スハマ」(発音は「スアマ」)と呼ばれる三脚の台にのせ、神饌として供えている(写真4)。同社の周辺地域では、神饌(とくに菓子など)をこの台にのせる神社が多々見られるという。「はじかみ大祭」で供えられる香辛料とその入手先は、次のとおりである。
  はじかみ:愛知県
  大生姜:高知県
  小生姜:愛知県
  山葵:丸果石川中央青果(石川県の中央市場)
  ゆり根:石川県金沢市近江町市場
  山椒:愛知県
  くわい:千葉県・高知県
 なお、神社伝来の文書によると、古くはヤマツツジも飾っていた。
 
 以上記したように、波自加彌神社における「はじかみ大祭」の調査から、この祭礼は旧例にならって加賀・能登・越中の旧3国の穢れを祓うことを目的とする一方で、その祭礼の独特な由来により、食品関連企業の崇敬を広くあつめ、非常に特徴的な「飛び地状」の信仰圏を形成するという現代的な側面をも有していることが明らかになった。

写真4 スハマにのせられた神饌

(2)金沢市における文献調査(調査日 6月14・16日)
 「神社祭礼に見るモノと心」グループでは、日本各地の神社の祭礼に登場する「モノ」(たとえば山車・笠鉾・屋台などの「曳きもの」など)にみられる地域的差異の解明も研究課題としている。そこで、6月14・16日に、石川県立図書館で北陸地方の神社祭礼に関する文献を閲覧し、複写作業を行った。今回の調査で収集した資料を分析し、他地域との比較を行いながら、日本の神社祭礼にいかなる普遍性・地域性がみられるかを明らかにしていきたい。
 
6.今後の課題
 今後の研究課題として、日本全国の神社の神饌にみられる地域的特徴や歴史的変化の解明を挙げることができる。上記の課題を解決すべく、本グループでは、平成20年度のアンケート調査の成果をふまえ、現地調査をさらに重ねることにより、より多くの神饌に関する情報(画像・資料)を収集・分析していきたいと考えている。
 
(文責: 筒井 裕)



このページに対するお問い合せ先: 研究開発推進機構事務課

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