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國學院大學
伝統文化リサーチセンター

貫前神社祭礼調査

2009年8月24日更新


1. 調査目的
 「神社祭礼に見るモノと心」グループでは、日本全国の神社の祭礼にどのような神饌が供えられているかを解明することを研究テーマのひとつにしている。これに関連して、本グループでは、平成20年度に「神饌とお祭りの記録に関するアンケート」と題し、全国の神社を対象に特殊神饌に関するアンケート調査を実施した。その結果、一之宮貫前神社(群馬県富岡市一ノ宮鎮座。写真1)では、近代以降も古い形の神饌を継承していることや、これらの大部分が「熟饌」と呼ばれる調理された食べ物で占められていることがわかった。
 以上を受けて、本グループでは、「熟饌」を供える代表的な祭礼のひとつである一之宮貫前神社の「御戸開祭(みとびらきさい)」の調査を行い、その儀礼構造と神饌の内容・歴史的変化・調整方法などを把握するとともに、これらの映像記録を収集した。なお、この調査の成果は、本グループによる平成21年度の「神饌」をテーマとした学術的活動に反映させていく予定である。

写真1 一之宮貫前神社

2. 調査期間
 平成21年3月13日~平成21年3月15日
 
3. 調査地
 群馬県富岡市・高崎市
 
4. 参加者
 筒井 裕 (ポスドク研究員)
 鈴木 聡子 (リサーチアシスタント)
 伊東 裕介 (本学大学院学生、作業協力者)
 
5. 概要
 一之宮貫前神社は、経津主神・比売大神の2柱を主祭神とし、地域の人々より、養蚕の神・農業の神として崇敬される神社である。同社では、歳旦祭(1月1日)・生弓矢生太刀神事(1月7日)・筒粥神事(1月15日)・御戸開祭(春が3月15日、秋が12月12日)・末社八坂神社祭(7月15日)などの祭礼時に、神前に「特殊神饌」を供える。以下に「御戸開祭」における調査結果を記す。
(1) 「御戸開祭」の儀礼構造
《3月14日 「御戸開祭」当日》
夕刻: 一之宮貫前神社の祭礼奉仕者は、祭典前に「ケッサイショク」と呼ばれる食事をとる。これは、煮物(ゴボウ・ニンジン・コンブ・油揚げ・チクワなどを醤油と砂糖で煮たもの)を白飯に混ぜた、いわゆる「まぜごはん」と、コンニャク・ゴボウ・ダイコンなどを具材とした汁物からなる。これらは、祭礼日に「四つ足」のものを食べないよう、潔斎を守るべく作られる。
修祓・行列巡行(午後7時~午後7時18分): 日没後、神社の西回廊前で修祓がなされ、その後、行列が境内を巡行する。その構成は、
  警護団・高張提灯・伶人・御神子(ミカンコ)・高張提灯・キジ(剥製)・榊
  ・祭主(宮司)・神職・氏子総代・参列者一同・高張提灯・警護
となっており、総勢数十名もの大規模な行列となる。一行は、
  回廊前→石段→不明門(あかずのもん)→鳥居(手水の儀)
  →本殿正面の石段→回廊前
の順番で境内を一周する。この行列のために、普段は閉ざされている「不明門」が一時的に開かれる。これは、春・秋の御戸開祭と流鏑馬祭(4月15日)に限ってみられる貴重な光景である。
祭典の斎行(午後7時20分~午後8時35分): 祭典は、
  修祓→献饌(特殊神饌)→祝詞奏上→御神子による舞の奉納
  →玉串奉奠→撤饌→退出
という構成をとる。一般的な祭式では数分程度で済む供饌に、この御戸開祭では祭典の約5分の1(約15分)もの時間をかける。この間、多くの特殊神饌が神前に供えられたり(後述)、その一部(禮酒)を用いての行事(「オケホケの儀」)が行われたりする。これらの事実から、御戸開祭において特殊神饌を供え、これを用いた神事を行うことがいかに重要視されているか、うかがい知ることができる。
(2) 神饌の内容・調整方法・素材・歴史的変化など
 御戸開祭には、次の8台の「特殊神饌」が供えられる(写真2)。
 1) 御飯(2台) 御飯の台は次の5品で構成される(写真3)。
  サルデ… 小判型の餅。2個1組で供えられる。
  栗餅… 丸型の餅。2個1組で小皿に盛られる。
  御飯… 忌火で炊いた白飯を御高盛にし、その周囲に白紙を巻いたもの。
  クナジリ… 櫛形に切り目を入れた角餅。これも2個1組である。
  菜… チンゲンサイ。ホウレンソウなど、他の青い野菜を用いることもある。
 2) 魚(2台)
  古くは「コイ」を使用していたが、現在は「タイ」を供える。これは、上州には海が無いため、
 かつては海魚の入手が非常に困難を極めたことによるものと考えられる。
 3) 御菓子(1台)
  ギョウザ型に似た餅の中に餡を入れたものと、餅を紐状にのばし、結んだものの2種類
 からなる。前者は女性の、後者は男性の性器を象徴しているという。いずれも素材は
 米粉である。
 4) 御酒(1台)
  禮酒(れいしゅ。白濁酒)と清酒の瓶子を1本ずつ供える。禮酒は即席でつくられる、
 いわゆる「一夜酒(ひとよざけ)」である。これは3月上旬の一之宮貫前神社の神事で
 醸されたものである。
 5) 斗餅(1台)
  12ケ月を象徴する楕円形の餅12個からなる。ちなみに、閏年は13個の餅を供える習慣
 がある。近年、これらのサイズを若干小さくし、皿の奥側に3個、中に5個、手前側に4個を
 載せるようにしている。
 6) キジ(1台)
  祭礼で「御先払い」の役割を果たすものだが、祭典では、1)~5)の神饌とともに神前に供え
 られる(写真4)。保護鳥獣の指定を受けているキジの捕獲には特別許可が必要となるため、
 この数年間は剥製を用いている。「本物のキジ」を使用した祭礼は、前々回の式年遷宮が
 最後であった。これらの神饌は、一之宮貫前神社の神職と同社の関係者(女性)の合計
 2~3名で、約2日間をかけて調整される。その際には、昭和前期に作成された神社文書
 『貫前神社特殊神事帳』の記述にしたがい、「古式を維持」するよう努めているという。また、
 作成時のコツ(たとえば餅を美しく盛り付けるために、これを一晩ねかせ、硬くするなど)は、
 女性が伝授している。以上記したように、御戸開祭の特殊神饌の多くは調理された食べ物、
 すなわち「熟饌」で占められ、かつ、これらはコメを素材とする白飯・餅・酒で構成されている。
 このことから、一之宮貫前神社の神饌がとりわけ「コメ」に比重を置いた構成を呈している
 といえる。これは、同地域以東に関東平野が広がっており、数多存在する食材の中でも、
 コメの入手が比較的容易であったことに由来するものと推察される。


写真2 御戸開祭の神饌

(*写真2… 一之宮貫前神社のご厚意により、祭礼時の配膳を再現していただいた。なお実際の祭礼では、神饌を一台のセンアン(神饌を置く平台)に並べる。)


写真3 御飯の台

(*写真3… 左後方から、クナジリ・サルデ・御飯・菜・栗餅である。)


写真4 キジの剥製

(*写真4… 口ばしに穴をあけ、キジ枠にキジを下げる。)


(2) 高崎市における文献調査
 「神社祭礼に見るモノと心」グループでは、日本各地の曳きもの(山車・笠鉾・屋台など)にみられる地域的差異の解明も研究課題のひとつにしている。そこで、3月13・14日の両日、高崎市立図書館において、北関東の曳きものの祭礼を中心とした神社祭礼に関する文献を調査した。今回の調査で収集した資料を分析することにより、他地域との比較を行いながら、日本の曳きものの祭礼にいかなる普遍性・地域性がみられるかを解明できるものと十分に予期される。
 
6. 今後の課題
 今後の研究課題として、日本全国の神社の神饌にみられる地域的特徴や歴史的変化の解明を挙げることができるであろう。上記の課題を解決するには、平成20年度のアンケート調査の成果をふまえながら、より多くの神饌に関する情報を収集したうえで、現地において調査を重ねていく必要がある。
 
文責: 筒井裕



このページに対するお問い合せ先: 研究開発推進機構事務課

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