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國學院大學
伝統文化リサーチセンター

フォーラム「環状列石をめぐるマツリと景観」

2010年11月15日更新

1. 開催主旨
 祭祀遺跡に見るモノと心グループでは、社会構造や文化・伝統などの時代性や地域性を、祭祀研究の前提として重視するクロス=コンテクスチュアル分析法(CCA)を採用している。そこでは、ランドスケープや「第二の道具」をはじめ、祭祀行為全般に含まれるあらゆる意味をどのように捉えることができるのか検討を行ってきた。
 この分析方法は、地域性を重視し、環境・居住・生業・社会構造・文化等の歴史的脈略を明らかにし、そこに祭祀を位置づけようと試みるものである。当フォーラムでは、その分析法を推進することを目的に、北海道森町、青森県青森市、秋田県北秋田市の研究者や関連する共同研究員を招聘し、新たな祭祀研究の方法を模索する研究発表と、各種の課題についての討論を開催した。
 
2. 日時
 平成21(2009)年6月20日(土)13時~17時10分
         6月21日(日)9時30分~16時
 
3. 場所
 本学渋谷キャンパス若木タワー地下1階 会議室02
 
4. 発表者 (発表順)
 阿部 昭典 (客員研究員)
 中村 大 (本センター・共同研究員、総合地球環境学研究所)
 加藤 元康 (ポスドク研究員)
 國木田 大 (東京大学総合研究博物館)
 石井 匠 (ポスドク研究員)
 谷口 康浩 (准教授)
 佐々木 雅裕 (本センター・共同研究員、青森県埋蔵文化財調査センター)
 高橋 毅 (北海道森町教育委員会)
 児玉 大成 (青森市教育委員会)
 榎本 剛治 (北秋田市教育委員会)
 太田原 潤 (本センター・共同研究員、青森県教育庁)
【講演】
 杉山 林継 (センター長)
 小林 達雄 (客員教授)
【討論司会】
 小林 青樹 (本センター・客員教授、国学院大学栃木短期大学)
 
5. 概要
 フォーラムは、研究発表の「祭祀考古学の視角」(1日目)と「縄文後期における環状列石と祭祀・儀礼」(2日目)、討論の「縄文時代における祭祀考古学の展望」(2日目)からなる3部構成で開催した。そこでは、方法論・理論面に関する発表(阿部・中村)と、クロス=コンテクスチュアル分析を行うための歴史的脈絡・社会的背景・景観・地域性などについての発表(加藤・國木田・石井・谷口・佐々木・高橋・児玉・榎本・太田原)を行った上で、3つの課題([1]「第2の道具」からどのように祭祀・儀礼に迫るのか、[2]遺跡の景観と祭祀、[3]環状列石の成立期に関する諸問題)を議論した。また、両日とも研究発表終了後には、祭祀考古学を提唱した杉山林継氏、縄文時代の祭祀研究を牽引する小林達雄氏の講演を行い、多角的な観点から縄文時代の祭祀について検討した。
 
6月20日:土曜日
〔祭祀考古学の視角〕
(1)「東北北部における「第二の道具」の多様化」
(阿部昭典)
 「第二の道具」の組成論と機能・用途論を中心に、「環状列石」=「葬祭センター」説の検証ならびに多様化とその意義の検討がなされた。まず、組成論と用途論を検討するにあたり、土製品・石製品のライフサイクルモデルが提示され、出土遺物がどの段階にあたるのか認識することは重要であるという指摘がなされた。「第二の道具」の組成、土偶、鐸形土製品、石刀なども述べられ、広域的な交流が見られる反面、独自性も顕示しており、祭祀・儀礼具、場の複雑化・機能分化の段階であると祭祀から見られる時代性の位置づけが述べられた。
(2)「祭祀考古学研究と解釈:コンテクストとスケール」 (中村 大)
 祭祀考古学研究としての景観について、その方法論とスケール設定の重要性を述べた。景観は日常生活を通じて形成され、物質的・可視的であると共に、観念的・多義的である。物質的・観念的な景観の形成やその変化には、様々なコンテクストが関与し、そのコンテクスト群は一定の空間的・時間的広がりであるスケールを有するものであると述べた。また、地域スケールの設定や、記念物景観とスケール、ローカル景観の通史性などを論じた。
(3)「環状列石と遺跡群の空間的関係」 (加藤元康)
 だれが環状列石で祭祀を行なったのかという命題を説明するために、祭祀の場と住居域の関係、環状列石の竪穴住居跡を評価するための集落構造の想定、遺跡群を設定するためのGIS分析などを行った。その結果、環状列石と遺跡群との関係は、分散した小規模集落群と他の群とをつなぐ存在として構築された可能性があると指摘された。
(4)「東日本におけるトチノキ利用の変遷年代と環境変動」 (國木田 大)
 縄文時代後半期の環境変動と人間活動の関係について述べ、主にトチノキ利用の変遷と、それをとりまく環境変動、土器型式・環状列石の年代などについて検討した。その結果、縄文中期前半と後期初頭にトチノキ利用と密接に関係する大きな環境変化が生じていたが、後期前半の環状列石が構築される時期にはすでに安定していたことが明示された。祭祀行為の成立と展開の意味を知るために、様々な環境現象と文化事象の相関性を検討することが必要であると指摘された。
(5)「縄文土器研究の新視角」 (石井 匠)
 縄文人はモノ(道具や空間)とどのような関係性を切り結んでいるのか。「モノと心」を考えるために、人とモノとの関係性を「容器」という観点から考察することを試みた。まず、縄文時代の人工空間であるモニュメント・ムラ・イエ空間の象徴性を「容器」という観点からひも解き、次に、縄文時代後期の十腰内1)式土器を事例に、最小の「容器」である土器文様に残されたさまざまな痕跡の観察から、当時の人々の心に迫る新しい方法論を提示した。
(6)「縄文時代竪穴住居にみる屋内空間のシンボリズム」 (谷口康浩)
 北海道アイヌの伝統的家屋であるチセと同じく、縄文時代における竪穴住居の屋内空間にも主軸の意識、内・外や左・右の二項対立、性象徴表現、聖的空間など、様々なシンボリズムを見出すことができる。これら、縄文時代中期に顕在化した観念的表現は、集落や墓域の構造などから窺われる当時の社会構造と密接に関わっていた可能性が示された。
 
〔講演〕
「祭祀と景観」
(杉山林継)
 居住空間と自然、太陽と季節、山と生活、岩・洞窟、水と生活など、祭祀行為をとりまく周辺環境の相互関係について指摘した。自然景観はそれ自体も、受け手の感性によって印象が左右される。祭祀遺跡の評価には様々な可能性があり、多くの仮説を検証していくことが必要であると述べた。
 
6月21日:日曜日
〔縄文後期における環状列石と祭祀・儀礼〕
・ 「三内丸山遺跡における環状配石墓の造営と祭祀・儀礼」 
(佐々木雅裕)
 三内丸山遺跡の環状配石墓を類型化し、それらの形成に集落構造との共通性が見出されることを示した。また、墓群と近接する道路跡との関係などについて述べ、墓列と日常的な空間の間に隔絶性が窺えない事実を指摘した。
・ 「北海道西南部の環状列石」 (高橋 毅)
 鷲ノ木遺跡群の調査成果を中心に、環状列石の詳細な内容、「第二の道具」の出土傾向について触れた。その上で、環状列石の位置付けを検討していくためには、周辺遺跡での土地利用の変遷や、二至二分と景観との関係をはじめ、生活空間・周辺環境の全般的な変遷の中で捉えていく必要性を述べた。
・ 「青森県における環状列石と祭祀・儀礼」 (児玉大成)
 青森における環状列石の特徴や、小牧野遺跡の調査成果を概観する中で、環状列石の構造を明らかにした。また、小牧野遺跡でも多数出土している岩板類が、地域的な土器型式の分布圏を越えて広く認められる事実を指摘した。さらに、環状列石の構築実験成果から、その形成が段階的に進められた可能性を示唆した。
・ 「米代川流域における環状列石と祭祀・儀礼」 (榎本剛治)
 まず、秋田県北部と南部の文化的差異を明示し、米代川流域の地域性を示した。その上で、環状列石に用いられた礫の構成から、石材分布と石材獲得戦略について検討した。また、群集する環状列石の構築順序、環状列石に伴う「第二の道具」の出土傾向や、立地の選択に見られるこだわりなどについて指摘があった。
・ 「原初的二至二分認識の萌芽と展開」 (太田原 潤)
 二至二分の認識には、暦法上のものと、経験的に知覚される原初的な二至二分があり、後者の例として三内丸山遺跡の6本柱、小牧野遺跡と八甲田山、大森勝山遺跡と岩木山などのケースが挙げられた。また、これらの遺跡が選択した占地傾向の背景としては、縄文人の知識と技術の大系に存在した山アテや日和見が想定されることについて述べた。
 
〔講演〕
「自然の社会化と縄文ランドスケープ」
(小林達雄)
 旧石器時代から縄文時代へ移行した日本列島の「縄文革命」は、人類史的に見ても画期的な出来事であった。定住して「ムラ」を造営することは、自然的秩序からの分離である。その一方で縄文人は、周辺の景観を社会化しながら、「ムラ」や記念物をはじめとする人工的景観を営んでいたことを指摘した。
 
〔討論〕
「縄文時代における祭祀考古学の展望」
(司会:小林青樹)
 討論の議題としては、(1)「第二の道具」からどのように祭祀・儀礼に迫っていくのか、(2)遺跡の景観と祭祀、(3)環状列石の成立に関する諸問題の3点があげられた。
 (1)については、阿部氏の発表を受けた研究の前提として、各地域における「第二の道具」の様相を確認したところ、大枠における組成の違いは明確ではないことがわかった。一方で、児玉氏の発表による岩板類の形態的な差についての議論は大方の同意がなされたが、使用方法などの不明な点は今後検討する課題とされた。
 (2)では、GIS分析によって景観構成のなかに遺跡群を位置づけることの有効性や、今後の方向性などについて中村氏よりコメントがなされた。また、各地域の具体的な様相を総合的に俯瞰してみると、遺跡の領域設定については、地域差がみられる可能性のあることが指摘された。なお、会場からは、集落内祭祀と集落外祭祀に関する意見が述べられた。
 (3)の環状列石の成立に関しては、三内丸山遺跡の「環状配石墓」との系統関係を指摘する説があるが、類例の少ない現段階では慎重に考えていく必要性が確認された。また、遺跡・遺構などの物質的系統関係だけではなく、環状列石をとりまく文化的・精神的側面からも追及する余地があるとの指摘が提出され、今後の検討課題を残した。また、全般的に冷涼化した時期にあったものの、環状配石が成立する後期前半までには既に気候が安定していたと見られることから、気候変動と祭祀行為の関係についても検討していくべきとの意見があった。
 
6. 成果と課題
 本フォーラムでは、1日目の6月20日(土)に約80名、2日目となる21日(日)に約60名の国内研究者と一般来聴者の参加を得た。そのうち研究発表では、当センターの研究成果に基づく提案と、各地域の研究者による具体的な地域相、という2つの面から議論を行った。討論では、先述した3点の課題を中心に検討し、祭祀遺跡・祭祀遺物の位置付けについて、集落・地域・環境など、複数の側面から接近することができた。個別具体的に明らかとなった事象は必ずしも多数に上ったわけではないが、本グループが目的としている研究方法の確立に向けて、多くの視点や課題を獲得できたことは大きな成果である。
 
文責: 加藤元康・阿部昭典



このページに対するお問い合せ先: 研究開発推進機構事務課

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